MRJの407機の受注のうち、その大半の340機を購入する予定なのは米国のエアラインである。そのため、仮にMRJの安全性に欠陥があれば、米国内で問題が起こる可能性の方が大きいといえる。そういう背景もあり、FAAはJCABに十分な審査能力があるかどうかも注視している。つまり、MRJプロジェクトにおいて試されているのは完成機メーカーである三菱航空機だけでなく、安全性審査を行うJCABもなのだ。そのため、JCABでは安全性審査を行う航空機検査官を増員するなど、審査能力を高めるために体制を強化している。

 それでは、MRJはFAAの型式証明を取得すべきなのではないかと考えてしまうが、実はそれも簡単ではない。なぜならば、FAAの制度は米国に立地している企業にとって、有利なように設計されているからだ。

 その代表例にDER(Designated Engineering Representative)制度がある。DERとはFAAの代理で安全性を審査することのできる有資格者のことを指し、メーカーが優れた安全管理体制を構築すれば、その中のエンジニアがDERを取得することが可能となる。このような形でメーカー側にDERの取得者が増えれば、FAAによる直接の審査を受ける必要がなくなっていくのである。

 日頃からFAAの審査を受けることの多い米国企業であれば、DERの取得が容易であり、実際にボーイングなどでは多くのDERがいると聞くが、米国に開発拠点も工場もない三菱航空機がDERを取得することは極めて難しいだろうし、だからと言ってFAAが直接審査すべく積極的に対応してくれるとも考えにくい。

 日本ではYS-11以降、民間旅客機の開発は行われてこなかった。

 仮に、YS-11の後も継続的に民間旅客機の開発が行われ、日本の航空局に経験とノウハウがより多く蓄積していれば、欧米並みとはいかないにせよ、世界に航空機を輸出したい国内メーカーにとってより適した環境になっていただろう。

 かつて、MRJの開発者の一人がこういっていたのを思い出す。「航空機は伊勢神宮の式年遷宮と同じです。20年に一度、航空機を作らなければ技能を伝承することができなくなります」。この技能の中には航空機の安全性を審査する公的機関も含まれると考えるべきだろう。