5年後には国連でスピーチ!?

高野 10年後の石坂産業は想像もできないくらいのレベルの会社になるでしょう。石坂社長に「静脈産業」という言葉を教えてもらいました。産業には「動脈」と「静脈」がある。ものづくりは動脈産業。それを廃棄・再生処理するのが静脈産業。動脈産業は華々しく伝えられることが多いですが、静脈産業は「くるな!」とか「出て行け!」と言われることがあります。

石坂 12年前のうちがまさにそうでした。「石坂反対!」「石坂産業は出て行け!」という横断幕が会社周辺に何枚も貼られていましたから。

高野 そうした人たちの心の奥底には、「ものづくりは偉いけれど、廃棄・再生処理はどうでもいい。どこか見えないところで誰かがやればいい」という思いがある。でも、これだけモノがあふれ、地球のゴミ問題は深刻になるばかりです。私たちはみんな絶体絶命の縁に立たされているんです。地球の健康を維持するために石坂産業の仕事は必ず必要で、それも地域から愛されるモデルをつくった。地球の救世主ですよ。おそらく5年後に国連で演説していると思う。

石坂産業正面玄関にそびえる数々の看板
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石坂 そんな(笑)。

高野 いや、冗談でもなんでもありません。モノはあふれるけれど、廃棄はきちんと行われないから、世界中で血管詰まりが起きている。本書に詳しくあるとおり、実際に中南米・カリブの10ヵ国の大使が訪問されているわけですし。

石坂 ラテンアメリカの多くの地域は、経済成長にともない産業廃棄物の排出量が徐々に増えていますが、リサイクル技術は進んでいないようです。それでうちの技術を学び、祖国に広めたいとおっしゃっていました。そこで外国の人たちにも当社にきてもらえる環境をつくろうと思い、来年夏に「多世代コミュニティくぬぎの森交流プラザ」をつくります。また、廃棄物に関する研究が日常的に行えるよう、将来的には研究機関もつくりたいと思っています。そこに廃棄物のリサイクル化や地域環境と共生する活動に関する知を集結させ、興味を持ってくれる世界中の学生たちと共同研究してみたいのです。

高野 世界中で必要なビジネスモデルです。本当に限りない可能性を見せてくれています。

石坂 これまでは「廃棄会社がどこまでがんばっているのか」という目線で見られていたので、経営的な目線、将来的な目線で評価していただいてうれしい限りです。でも、「100年先が見える工場は自然との共生だった」ことに気づいた私たちの取り組みは、まだ始まったばかりです。
(後篇につづく)

<著者プロフィール>
埼玉県入間郡三芳町にある産業廃棄物処理会社・石坂産業株式会社代表取締役社長。99年、所沢市周辺の農作物がダイオキシンで汚染されているとの報道を機に、言われなき自社批判の矢面に立たされたことに憤慨。「私が会社を変える!」と父に直談判し、2002年、2代目社長に就任。荒廃した現場で社員教育を次々実行。それにより社員の4割が去り、平均年齢が55歳から35歳になっても断固やり抜く。結果、会社存続が危ぶまれる絶体絶命の状況から年商41億円に躍進。2012年、「脱・産廃屋」を目指し、ホタルや絶滅危惧種のニホンミツバチが飛び交う里山保全活動に取り組んだ結果、日本生態系協会のJHEP(ハビタット評価認証制度)最高ランクの「AAA」を取得(日本では2社のみ)。
2013年、経済産業省「おもてなし経営企業選」に選抜。同年、創業者の父から代表権を譲り受け、代表取締役社長に就任。同年12月、首相官邸からも招待。2014年、財団法人日本そうじ協会主催の「掃除大賞」と「文部科学大臣賞」をダブル受賞。トヨタ自動車、全日本空輸、日本経営合理化協会、各種中小企業、大臣、知事、大学教授、タレント、ベストセラー作家、小学生、中南米・カリブ10ヵ国大使まで、日本全国だけでなく世界中からも見学者があとをたたない。『心ゆさぶれ! 先輩ROCK YOU』(日本テレビ系)にも出演。「所沢のジャンヌ・ダルク」という異名も。本書が初の著書。