和食をいかに伝えるか

松久 今、わさびや醤油、味噌をはじめとした和食の食材が世界中のシェフに使われ始めています。これは日本料理が広まってゆく格好のチャンスなんです。そのチャンスの中にあって、日本料理をきちんと教えることの重要性も増しています。それをまさに推進しているのが村田さんです。これから5~10年先がすごく楽しみですね。日本食をきちんと学んだ人が、海外で自信を持って料理をしていく時代がきっとくるでしょう。

村田 日本料理が日本人にしかつくれないようではいけないと思っています。世界の人が日本料理をつくり、学ぶことができるシステムをつくっていかなければなりません。そのためには教え方も大切です。日本料理のレシピでは、「一口大に切って、薄塩して、さっと茹でる」「きれいな焼き色がつくまで」なんてことが普通に書かれているのですが、これだと海外の人は何も分からないわけです。

松久 (笑)。

村田 日本人がなんとなく分かったような気になっていることを、誰にでも分かるようにしていく必要があるんです。

松久 同じ焼き魚をとっても、海外の料理と日本料理は仕事に違いがあります。旬の魚を姿かたちを整えてきれいに焼き、器に盛り付ける。とても繊細な仕事です。こうした感性は教えないと分からないものです。しかし基礎さえ適切に教えられれば、外国人の手で立派な日本料理が生み出せるようになると思います。

村田 日本料理は美的な満足があるかを常に考えることが、その技術の中に入っているわけです。

松久 最近はフランスでもスペインでも、食材もしかりですが、日本料理の盛り付けに大きく影響を受けていることが見て取れますね。

村田 また、今や旨味「UMAMI」は世界共通言語になったわけですが、なかなかこれを表現し、伝えることは難しいものです。日本人は古来から「旨味が肝心だ」と言ってきたものですが、海外ではそもそも旨味の感覚がない。つまり、「甘い」、「苦い」、「酸っぱい」、「辛い」の4つの味覚で味を感じ、表現してきたわけです。少し前までは「旨味を感じる受容体が味蕾にはない」とすら言われていたほどです。しかし、旨味はグルタミン酸やイノシン酸として在るものであり、2000年には旨味を感じる受容体も発見されたことから、その存在は確定的になりました。とはいえ、旨味の味とは何かというと、なかなか日本人でも説明が難しいものですね。

<取材協力:NOBU TOKYO