1月に入ってから、あるニュースサイトが「女性専用車両はいらないと思うかどうか」を女性に聞くアンケートを実施した。その中で60代女性の約3割が「いらない」と答えた結果に対して、「裏を返せば60代女性の7割が自分が痴漢に遭わないために女性専用車両が必要と考えている」という内容を書き、さらに皮肉めいた文章を続けた。

 その後、記事には多数の批判が寄せられ、3日後の1月8日に編集部が「メディアとして配慮に欠け、また想像力が乏しかったことについて猛省いたしております」と謝罪文を出し、記事を削除。

 記事削除前に編集部に取材を申し込んだところ、「(女性専用車両には賛否があることから)データを読者の方に委ねることで、様々な議論が出ればと思っていたが、記事中の文章の一部が集中的に批判された結果については想定外でした。皮肉的に匂わせるのではなく、もっとわかりやすく『議論のテーマとなる疑問』を提示するべきだった」との回答だった。

 記事を執筆したという若い男性ライターは軽率だったかもしれないが、痴漢行為を軽んじているようにも見える一文をなぜ書いてしまったのかを考えてみると、そこには男女間の認識の差があるように思える。痴漢被害の「数」と「実態」に関する認識の差だ。

性犯罪なのに「電車内痴漢」には
深刻な響きが薄く感じられる

 痴漢は性犯罪だが、なぜか「痴漢」という言葉には深刻な響きが薄く感じられる。「運の悪い女性が、たまに服の上から尻や胸を触られる程度」。そういった被害であっても、もちろんあってはならないことだが、もしそう思っている人がいるのであれば、それは違う。

 前出の『電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書』によると、2009年における電車内での強制わいせつの認知件数は340件。迷惑防止条例違反のうち、痴漢行為の検挙件数は3880件だったという(どちらも全国)。

 ただし、報告書では「しゅう恥心等から被害申告をしない者もいると予想されることから、犯罪統計だけでは測ることができない被害実態がある」と指摘。実際に、2010年に東京・名古屋・大阪の3大都市圏で通勤・通学のために電車を利用している16歳以上の女性2221人を対象とした調査では、全体の13.7%にあたる304人が「過去1年間に電車内で痴漢被害に遭った」と回答。そのうち89.1%にあたる271人が、「痴漢被害に遭っても警察に通報・相談していない」と答えている。

 この結果から、ごく単純に、被害者の10人に9人が通報しないと考えると、実際の発生件数は認知件数・検挙件数の10倍以上ということになる。