正しい答えがない世界で
組織を動かしていける存在

 また、プロフェッショナルは、「その道のプロ」という名のスペシャリストとは似て非なるものです。大前氏の定義によれば、プロフェッショナルとは以下のような存在です。

 スペシャリストはいわゆる専門家です。会計士であればすべてのルールに精通し、間違いなく会計処理ができます。しかし、顧客が次第に多国籍化して、通貨も税制も異なる国での操業が増えてきます。法律というものは、スペシャリストの集団である官僚や協会(業界団体)によってつくり替えられていくわけですから、常に時代よりは遅れていく運命にあります。こうした状況を読みながら顧客を正しく導いていくのが会計のプロフェッショナルです。ルールがあれば、コンピュータに吸収される仕事ならできるスペシャリストに対して、道なき道、ルールのない世界でも「洞察」と「判断」をもって組織を動かしていけるのがプロフェッショナルです。これは顧客に関する深い洞察と、そこに働いている力、つまり「Forces at Work(フォーシズ・アット・ワーク)」への理解がなくてはできません。正しい答えがなくても、いろいろな状況を想定して、正しい対処をしていくことは可能なのです。

 先の見えない二一世紀の経済世界においては、正しい答えがない場合がほとんどでしょう。ボーダーレスでサイバーな経済に官僚や業界が追いつくことなど、当面まったく考えられません。だからこそ、「方向」に関して、また「程度」に関して適切なアドバイスのできるプロフェッショナルが必要とされているのです。(36~37ページ)

 プロフェッショナルは感情をコントロールし、理性で行動する人です。専門性の高い知識とスキル、高い倫理観はもとより、例外なき顧客第一主義、あくなき好奇心と向上心、そして厳格な規律。これらをもれなく兼ね備えた人材を、私はプロフェッショナルと呼びたい。(40ページ)

「先の見えない二一世紀の経済世界」においては、見えている人や組織を動かすのではなく、見えていない経済社会を切り取って、そこに人や組織、場合によっては自社以外の人や組織、あるいは不特定多数を追い込んでいく作業が必要となります。また、顧客といっても「触(さわ)れる顧客」ではないかもしれない。いま付いている顧客も氷のように溶解してしまい、想像もつかなかったような人々や企業、不特定多数が顧客になるかもしれません。プロフェッショナルに要求される「顧客」への理解、というのは、そのレベルの理解なのです。