プロフェッショナルになるための
4つの力

 そうだとしたら、プロフェッショナルになるためには何が必要か。大前氏が説いているのは以下の4つの“力”です。

1 先見する力
2 構想する力
3 議論する力
4 矛盾に適応する力

 先見力とは、見えないものを見る力です。誰の目にも見えているものに事業化のチャンスや成功は期待できません。先見力を磨くためには、常に前人未踏の世界を見ることに集中することが重要なのです。

 同様に、構想力には複眼的な視点が要求されます。成功の必要条件となる社会のニーズを見極めるにしても、特定の国や地域だけに注目して思考すると命取りになりかねません。グローバル化、ボーダーレス化が意味するところは、単に国境が無くなり、地球規模で自由に取引ができることではありません。どこからともなくライバルが出現したり、地球の裏側で起こったあずかり知らぬ出来事が、巡り巡ってわが身に深刻な影響を及ぼしかねないのです。

 九・一一がいまだに世界中の物流や移動の自由に影響しているのは、物事の相互依存性が世界規模に広がり、原因と結果の関係が複雑になっているからです。私が「これまでのルールは通用しない」「常識を疑え」「現状に安住するな」としつこく繰り返すのはこのためです。そこで求められる姿勢として、世界の主要市場には最初から等距離であること、つまり、開発の段階から複数の市場を視野に入れて事業を構想することが重要なのです。ネスレやジョンソン・エンド・ジョンソンといった消費財メーカーは、かねてからこのようなアプローチを実践し続けています。(117ページ)

 議論する力は、構想の質を高めるだけでなく、構想を実現するうえで欠かせない能力です。先見力や構想力は個々の才覚による部分も少なくありませんが、議論する力は訓練によってだれでも後天的な学習が可能です。

 いくら英語に堪能であろうと、いくら異なる文化を学ぼうと、ロジカル・シンキングとロジカル・ディスカッションが確立されていなければ、議論する力を体得することはできません。アマチュアは感情や経験で議論しますが、プロフェッショナルは少なくともロジックで議論するのです。(152~153ページ)

 スペシャリストではなく、ゼネラリストでもないザ・プロフェッショナル――。彼らが待望されるのは、道なき道を嗅ぎ分け、集団を導いてくれるからです。

 本書は、2004年8月号から始まった『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』誌の連載6回分を全面改訂して収録。全体を通じ、至る所で“大前節”が炸裂しています。