複雑さと、洗練された人格を
併せ持った人物

──投資家として、孫社長の持つ魅力は何でしょうか?

 孫さんはお金を必要としていない人々にまで、自分の出資を受け入れさせる天才なんです。僕らの投資対象であるアーリーステージ(早期段階)のベンチャー企業は、いつも資金に飢えています。そしてリスクも高い。しかし、すでに成長軌道に乗っているベンチャー企業というのは、十分なキャッシュを生み出せるので、目先の金を必要としてない場合もあるんです。

 その好例が、1995年~96年に孫さんが2回に分けて投資をした米ヤフーでしょう。まず1回目は2億円を出しました。この出資金額について、創業者のジェリー・ヤンさんはもちろん快諾しました。ところが、そのわずか1~2ヶ月後になって、孫さんは今度は100億円出そうと言い始めた。この申し出についてはさすがに拒否されました。当時、すでに米ヤフーにはセコイア・キャピタルという有力ベンチャー・キャピタルが投資家としてついており、当面の資金には窮していなかったのです。

 ところが孫さんはあきらめないんです。米シリコンバレーのサンノゼ市から南方に、ペブルビーチ・ゴルフリンクスという名門ゴルフコースがあります。そこでヤンさんと日中ゴルフを楽しむと、その日の夜に、延々と5時間にわたって追加出資について説き伏せたのです。最後はヤンさんが降参することになったのです。

──孫社長という人は、よっぽどの口説き術を備えているのですね。

 彼が語るソフトバンクグループの「300年ビジョン」(2010年発表)こそ、まさに“必殺技”なんですよ。ベンチャー企業を立ち上げた起業家たちは、時として、その投資家たちから短期的な見返りを求められることがあります。例えば新規株式上場を果たしたり、M&Aによって投資回収のチャンスを作れといったものです。でも孫さんは違います。実際に中国のアリババへの出資がその好例ですが、彼は決して短期的なリターンを求めません。

 そして出資交渉をする際には、まずはビジョンを聞きます。そして、すごいスピードで最低価格を計算します。もしその価格が高過ぎれば、彼はその話には乗りません。もし妥当であれば、もっとも良い条件で出資するように持ちかけます。そして最後に、例の“必殺技”を繰り出すのです。

 世界トップクラスのモバイルゲーム開発会社のスーパーセル(フィンランド)は、その最たる例ですね。その収益力に対して、信じられない出資額で筆頭株主になることに成功しました。それもこれも、創業者のイルッカ・パーナネンが孫さんのビジョンに共感したからこそなんです。孫さんから「なあグレッグ、どうやって出資したか、聞きたいか?」って言われましたよ。

──昨年10月に入社し、ソフトバンクの戦略的買収子会社を任された元グーグル最高幹部のニケシュ・アローラ氏とどう協力していきますか。

ソフトバンク・ベンチャーズ・コリアの投資運用規模は約220億円。現在は約61社に投資しており、うち80%が韓国企業だ

 ニケシュさんは、ソフトバンク本社が30%以上の株式を握るような大型の直接投資を主に担当することになります。我々はあくまで20%以下のベンチャー案件がメインです。それでも我々は出資先の検討からデューデリジェンス(価値査定)、交渉まで常に情報交換をしていきます。ニケシュさんとはまだ2度しか会っていませんが、これからさらに強固な関係を築いていきます。

──最後の質問です。孫さんを歴史上の人物に譬えると、どのような人が思い浮かびますか?

 彼は複雑さと、洗練された人格を併せ持った人物です。彼の10代は、自身が尊敬した坂本龍馬のように「脱藩」しましたね。16歳で海外に飛び出しました。20代は、古代中国の軍事思想家の孫氏のようです。彼はこの時期に自分の人生における大きな目標を設定しました。

 30代は、モンゴル帝国の初代皇帝チンギス・ハンのようでした。遊牧民のごとく駆け回り、米国企業に出資して自分の版図を広げました。40代は、ローマ帝国を作り上げたユリウス・シーザーみたいですね。そして50代に達している今の孫さんは、もう孫さんその人としか言いようがありません。

 彼は1957年に生まれで、アップルの故スティーブ・ジョブズや、米マイクロソフトのビル・ゲイツと同じ世代(共に1955年生まれ)です。現在のIT業界において、いまでも現役でありつづけている同世代の人は、他に誰がいるでしょうか? それこそ孫さんなのです。