妻に比べると、子どもたちは意外とあっさりしています。私の前職は自衛隊で、家を留守にすることがとても多かったからなのか、「お父さんは、いつも通り家にいない」と思っているのでしょう。ただ、会話に飢えているなと感じることはあります。車で一緒に移動するときは、子どもたちから話しかけて来ることが多いですね。

 私の親は、打ち上げに期待している部分も、不安を感じる部分も、いろいろな気持ちが複雑に混じっている状況だと思います。前職の影響もあってか、私は自分の仕事についてそれほど細かくは話しません。それ自体が禁止されていたときもありました。それもあって、もともと私の仕事をすべて理解しているかというとそうではなく、Twitterで知るくらいでしょうね(笑)。

――油井さんは、初の自衛隊出身の宇宙飛行士です。ご家族は覚悟を必要とされる状況に慣れているようにも思いますが。

 それはあるかもしれません。前職のときから、「私を頼りすぎると何かあったときに大変だ」と伝えていました。万一の事態をどこまで真剣に考えていたかはわかりませんが、やはり考えていたとは思います。それだけの危険を伴う仕事でしたから。

テストパイロット経験から
たどり着いた死生観

――打ち上げに際しては、ご自身でも期待と不安の両方があるかと思います。

 最も大きな不安は、多くの予算をつぎ込んでここまでトレーニングをしてきて、国の代表として仕事をするため、自分にその実力があるのか、ミスなくできるのかということが挙げられます。ただ、不安を感じるという現象自体、私はポジティブに捉えてもいます。何かしらの理由があるから不安を感じるわけです。その理由を分析して、不安がなくなるように努力すればいいだけだと思います。

 自分のどの部分、どんな能力が足りないのかを見つけて、そこを鍛えればいい。それでも得手・不得手はあるので、自分の弱点だと理解しながら事前準備をできないのであれば、それを仲間に話して、手伝ってもらいながら備える方法もあります。そうして不安を和らげていくことで、前進できるのではないでしょうか。

 期待としては、実験すること自体を非常に楽しみにしています。小さなころから実験が大好きで、休み時間に理科室に行っては、先生に「実験させてください」と頼むような子どもでした。今回は仕事の一部ですが、実験は楽しみですね。

――自衛隊のテストパイロットとしての経験は、宇宙飛行士の訓練でも活かされると思いますか。

訓練時代のT-38初フライトの様子
Photo:JAXA

 はい、テストパイロットで培った能力はとても役立つと思っています。国際宇宙ステーション(ISS)でも、手順に従い、ISS船長と協力しながら仕事を進めていくことになります。なぜこのボタンをこのタイミングで押しているのか、その影響にはどのようなものがあるのか、入れ替えたとしたらミスが少なくなるのか……テストパイロットはそうしたことまでを考えて操作する習慣が身に付いています。それは宇宙飛行士にも必要な能力です。

 このスイッチはいつ押しても大丈夫なのか、ヒューマン・マシン・インターフェイス的にはミスが減るのかまで考えるには、非常に高い知識が要求されますが、そこにもテストパイロットで飛行機を操縦していた経験が活かせます。ロシアでもアメリカでも、当時の経験を活かしてコメントすると、専門のエンジニアが動いてくれることもありました。

 技術的な面以外では、いざというときの覚悟を持つ準備の必要性を自覚しているのは大きいと思います。テストパイロットは死と隣り合わせの仕事でもあったので、人はなぜ生きるのか、それは死生観に近いものまでを考えて仕事をしていました。宇宙飛行士にもそれと似た部分があるので、助かっています。

――油井さんの死生観について、もう少し詳しく聞かせてください。

 人は何のために生きるのかと考えを巡らせるなかで自分を納得させたのは、他人にどれだけのことをできるのかに人生の価値がある、ということです。人の命は有限ですが、私を含めて、多くの人が長く生きたいという欲望を持っていると思います。そこから、「では、究極の長生きとはなんだろう」と考えたとき、自分がやってきた行動が周りの人たちの心の中に生き続けることだと思いました。

 たとえば、私が一人の人を助けて恩に感じてくれれば、助けた人が生きている限り、私はその人の心のなかに生き続けることになります。そう考えると、自分自身の肉体の死はそこまで怖いものではない。宇宙飛行士の仕事は、私の死生観にも合っていると思います。国を代表して、全人類のために仕事ができることを誇りに思っていますし、そこで何かがあったとしてもまったく悔いはありません。