元・名プレーヤーは
現場で仕事を教えるな
前回は、組織における人材育成の「守破離」の話をした。つまり、人材育成とは武士道でいう修行の段階「守」「破」「離」に沿って行うべきということである。
「離」の段階に来た者はマイスター、熟達者だ。現場のマイスター、中間管理職のマイスター……と存在する。マイスターはあまりに熟達しているので、初学者の悩みがわからないことも多い。体が自然に動いていい仕事ができてしまう。だから、初学者にはまだまだ発展途上の「破」の段階の人間が教えるほうがいい。さらに、副次効果として、教えることで彼らも育つ。
たとえば、現場のマイスターということでは、あなたがそうかもしれないが、名プレーヤー上がりの課長を想像してみるといい。彼・彼女のプレーヤーとしての力量は、新人から比べるとレベルが高すぎるはずだ。昔は苦しんで能力アップしたはずなのだが、今となっては遠い昔、何で自分はそれができるのかはわからないという場合も少なくない。
だから、元・名プレーヤーの課長は現場で教えてはいけない。つい最近まで、現場で苦労していた人間が教えるのが一番いい。
その代り、ミドルマネジャーは自分が育成しなくてはいけない部下が、一人一人、「第○タームの第○段階」にいるのかということを常に意識して見なければならない。つまり、「あいつは作業スタッフだが、そろそろ次の段階に来るな。部下に教えさせて育てないといけない」「彼は現場段階は卒業だから、次はスーパーバイザーの型を学ばせないと」などと、常に気を回している必要がある。
ミドルマネジャーはマネジャーとしての仕事に加えてプレーヤーの仕事もあるだろうし、その他管理職としてのさまざまな仕事がある。しかし、育成も極めて重要な仕事であると認識してほしい。
私はミドルマネジャーだったときに、1年に1枚、個人別の育成カルテをつけていた。一人ひとりと、その部下が3年後くらいになってもらいたいと思う目標を話し合って決める。そこを目標として、今の段階で何が足りていて、何が足りていないかを見極めて書いていく。
そして、今年1年、OJTで何をやって、OFF-JTで何をやっていくかという内容まで、すべてを1枚に簡潔に書いていく。
これを一人1枚、毎年書いていた。10年経てば10枚たまる。それを見比べていくと、10年前に「今年は英会話」と書いてあって、今年も、「今年は英会話」と書いてあったら、「こいつ、全然進歩していないな」とわかる。メモでいいから、そのくらいのことをミドルマネジャーはやるべきだと思う。