子どもの中の「残酷さ」とつき合う方法
奥田 子どものころは残酷なので、ミミズを切ったり、蛙をつぶしたりします。そうした幼児期の体験を認める必要もありますね。そして、それは残酷なことをしたという、なんだか後ろめたい気分を味わえるという。
小島 私は3、4歳のころ、ナメクジを見たら踏むという「自分ルール」をつくっていました。ある日、足の裏にグニュといういやな感触を覚えて、突然踏めなくなりました。そのとき「大人になった」と感じました。
奥田 私たちは肉を食べているのに、それを牛や豚や鶏の命と結びつけて考えることがない。こちらのほうが危ないことだと思います。世の中には強い反対意見があるのを承知していますが、ナメクジを踏んだときの感触、ミミズがのたうちまわりながら死んでいくのを見る経験もまた大事です。ナメクジやミミズのような小さな命でも、のたうちまわりながら死んでいくのをやってしまった、その気まずさや罪悪感を体験するってこと。
小島 息子たちもアリを踏んづけていました。ただ、そのとき、大人がどういう反応をするのかが大切ですよね。大人がおもしろそうにしていたら、子どもは、アリを踏むという行動におもしろいという評価を関連づけて記憶します。
私はそういうときに「命は二度とつくれないのに。私はそういう残酷な行為は大嫌いだ!」と言っています。それを聞いた息子たちには、生き物をおもちゃにしたときの気まずさとネガティブな評価が記憶されると思うんです。
奥田 実践を伴わない教育学者なんかは「命の大切さ」を教えるために、ナメクジやミミズを殺すなと教えようとするかもしれません。でも、そうじゃなくて「命の大切さ」はナメクジやミミズを残虐に殺してしまった経験と、奪われた命について大人から意識づけられることにより、体験的に学んでいくべきです。
小島 そういう学び方が大切なんですね。
奥田 子どもが「後味の悪さ」や「気まずさ」などを体験することも重要なんですよ。今回のこの本では、“イネイブリング”や“イネイブラー”という用語を使って、多くの親がやってしまう失敗を解説しています。自分のしたことに対して責任をとらせるのです。「後味の悪さ」や「気まずさ」を体験することは、発達のうえでとても大事ですから。
小島 行動分析学の子育ては、理念に忠実な子育てに追い詰められた人に、合理的で現実的な解決法を示すものかもしれませんね。
奥田 そうそう、オーストラリアといえば伯父家族がシドニーに住んでいます。昨年、仕事と同時に久しぶりに再会しました。
小島 そうなんですか!
奥田 小島さんのパースでの子育て、時期的には青年期を迎えるのでこれからがまた違った意味で大変ですけど、本当に楽しみですね。
小島 都市と大自然が調和した、子育てには最高の環境です。オーストラリアは留学生を積極的に受け入れていることもあって、教育の質も高いですよ。でも、いわゆる偏差値偏重ではなく、美術や演劇などにも力を入れているんです。有名なハリウッドスターも結構オーストラリア出身だったり……。
奥田 そうそう、ニコール・キッドマンのお父さんは、故アントニー・キッドマン先生。私と同じ専門で行動療法の先生なんですよ。私、何も知らずに神戸で国際会議があったときに、シンポジウムの司会を依頼されました。何も知らずにそのセッションを紹介する際、パワーポイントで「私こそ、本物の“ラストサムライ”だ!」とやったんですよ。
小島 ありゃ、それは…。
奥田 終わってから同業の先生から「奥田先生、さっきのキッドマン先生は、ニコール・キッドマンのお父様なんですよ」と言われて、「うん、それで?」と。
小島 …!(爆笑)
奥田 「ニコール・キッドマンは、トム・クルーズの元奥様ですよ!」と言われて、「うん、それで?」「トム・クルーズと言えば、“ラストサムライ”ですよ!」と言われて、「うん、それで?……はっ!!」と。「しまった! やっちまった!! それ、先に教えてよ!」と。
小島 …!!!(大爆笑)
奥田 ってなことが、ありました。(笑)
小島 奇跡ですね。
奥田 やけに会場がシーンとしているなあと。(笑)
小島 いや、まさにサムライです(笑)。
奥田 小島さん、雑談も楽しかったです。またいつか、お会いしましょう。
小島 今日は勉強になりました。ありがとうございました。
奥田 こちらこそ、たくさん励まされました。多くの親御さんが「解縛」されるとよいですね。
(終)