修得すべきは、感情をコントロールする「技術」
小島 もう1つの神話は、子どもの出来のよし悪しは、親の人間性を表すという強迫観念。自分の子どもが善良で優秀であることが、自分が善良であり優秀であることの証明だと思い込んでいる。でも、誰の中にも怒り、憎しみ、嫉妬などの感情は普通にあるし、完璧じゃない。それを認めたうえで、どうコントロールするかという「スキル」を修得すればいいだけのこと。親も子も聖人君子であれなんて、無理ですよ。
臨床心理士/専門行動療法士/行動コーチングアカデミー代表。常識にとらわれない独自の指導プログラムにより、さまざまな子どもの問題行動を改善させる行動分析学者。数万件以上の難問題を解決してきた手腕から「子育てブラック・ジャック」と呼ばれ、日本各地のみならず世界各国から指導依頼を受ける国際的セラピスト。『NNNドキュメント』『スッキリ!!』では、「今、最も注目されている教育者」として紹介。『あさイチ』他にも出演。著書に、『世界に1つだけの子育ての教科書』『拝啓、アスペルガー先生【マンガ版】』『叱りゼロで「自分からやる子」に育てる本』『メリットの法則』など。
奥田 すごいなあ、小島さんのほうから「スキル」という言葉をサラリと使っていただけました。たとえば、「怒り」という感情をコントロールする「アンガー・マネジメント」というプログラムがありますけど、僕は、国語や算数を習うのと同じように、アンガー・マネジメントも小学校のカリキュラムに入れて、練習して身につけるべきだと思っています。
混雑した東京駅を歩くとき、他人様と肩が少しだけ当たってしまうことがあるでしょう。東京では「チッ」と舌打ちされたり、「ったく、なんだよ!」と言われたりすることが多いなと。
でも、アメリカに行くと全然違う。昨年も、ニューヨークで思いました。私のほうが少し悪かったかなという感じで、向かいからきた人に軽くコートの裾が当たってしまいました。そうしたら、ほとんどの場合、アメリカ人から反射的に「Oh, Excuse me.」と言われる。これはニューヨークの人が寛容だとか、いい人だということではない。
小島 それは「護身術」ですよね。謝らないとトラブルに巻き込まれる可能性が高いから。わざわざ自分を危険にさらす方法で、感情を表出する必要はありません。
奥田 ですよね。相手をにらみつけたり舌打ちしたりするような攻撃的な態度を出すほうが危険なわけで、その危険をいかに回避するかという、これもまたスキルなんだと思うんですよ。極力、加害者や被害者にならないためのスキルです。
小島 すぐに舌打ちする人って、ひどい甘えがあると思います。
奥田 それで私は、こんなプログラムをつくりました。小学生全員にロールプレイでやらせます。スクリプト(台本)を持たせて。2人を歩かせて、すれ違いに少し肩をぶつけてもらって、その瞬間にどちらが早く「あ、ごめんなさいっ!」と言えるかを競うゲーム。これを何度も何度もやっておくと、本当に街でぶつかったときに「ごめんなさいっ」と言える可能性が高くなります。「気持ちいいマナー、ゆずりあいをしましょう」みたいな標語をかかげたってダメなのです。
小島 怒りをコントロールする技術を身につけた人の多い世の中のほうが安全ですよね。