原油価格急落の背景と
サウジアラビアの思惑

 そもそも、原油価格はなぜここまで急速かつ大幅な下落になったのだろうか?

 まず、ウクライナ問題の拡大やイスラム国の台頭による供給懸念が、原油価格を高止まりさせ、これが高コスト生産者の増産を可能にして、市場は供給過剰の状態にあった。

 そこに、IMFなどが経済見通しを下方修正、それに伴い原油の需要見通しも下方修正されたため、需給バランスが急速に悪化するとの懸念が強まった。そして、価格の調整役として期待されていたOPECが、11月の総会で減産を見送った。

 さらに金融面では、米国の金融政策が正常化に向かう中でドル高が急速に進行していた。ドル高は消費国の自国通貨ベースの価格を上昇させるため需要の減少に繋がり、ドルベースでの残高維持のためファンドの調整売りを誘発しやすい。

 価格の急落は、これらの複数の要因が重なったためである。特にOPECの減産見送りが、価格の下落を顕著なものにしたといえる。

 今回の減産見送りは実質的にはサウジアラビアが決断したものと考えられるが、その背景には、イラン革命をきっかけとする第二次オイルショックの発生した1980年代前半に、サウジアラビアが講じた価格維持策が、有効に機能しなかったという苦い経験がある。

 このときサウジアラビアは価格維持を目的として生産削減を行ったが、他生産者にシェアを取られたのみで、原油価格を維持することができなかった。これを機にサウジアラビアは、一定のシェアを確保するために、市場価格を基準に価格を決める方式とせざるを得なくなった。その結果生産調整は進まず、湾岸戦争などの地政学的リスクの顕在化といったイベントで急騰する局面はあったものの、この価格低迷は、非OPEC生産者も巻き込んだ大規模な生産調整が起きる1998年まで続いた。

 昨年から今年にかけての世界の石油市場の状況は、この頃の状況に似ている。高コスト生産者の増産(米国に限らない)、需要の減少、サウジアラビアの決断、といったキーワードはほとんど同じだ。

 IMFが経済成長見通しを引き下げ、米国のシェールオイルの増産も続き、需要増加の牽引役であった中国の人口動態がピークアウトして需要の見通しが不透明な中で、サウジアラビアだけが減産しても、シェアを奪われるだけで価格に歯止めをかけることは難しい、と考えたのは想像に難くない。そのような状況で原油価格を低くして「高コスト生産者を退場させよう」という戦略を、サウジアラビアが選択したことは理にかなっていると考える。