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データサイエンティストの冒険

本格的なIoT時代の到来を前に、
日本企業の奮起に期待したい

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第15回】 2015年3月10日
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 たとえば、自動運転車の開発で注目を集めるグーグルは、今後自らが保険事業者となって自動車保険を販売するのではないかと目されているのをご存知でしょうか。また『Apple Watch』の発売が間近と噂されるアップルも健康分野に進出し、データの収集とアナリティクスを駆使した新しいビジネスに注力し始めています。

 こうした取り組みは、やがて彼らを製造業や流通、医療や教育など、あらゆる既存産業サービスのあり方に影響力を行使するような立場を与えることになるでしょう。

 グーグルの自動運転車につけられたカメラやセンサがドライバーの腕前や安全性に対する意識を判定したり、アップルが集めた血圧や血糖値のデータや運動履歴によって、自動車保険や医療保険の料金を決める日もそう遠くないのかもしれません。

もっとも大切なのは
失敗への恐怖を克服すること

 こうしたイノベーティブなサービスが実現するためには、業界を越えた企業同士の協力関係や、データを安全に利活用するための仕組みづくりが欠かせません。さらにニューラルネットやディープラーニングによるパターン認識、データマイニングといった最先端テクノロジーの知見を持った人材への投資も必要になるでしょう。

 すでに多く日本企業がそのことに気付き始めていますが、その動きはあまりにも遅く、リーダーシップを発揮しきれていない現状があります。どうしてこの国からは、グーグルやアップルのようなリスクを恐れない企業が登場しないのでしょうか?

 時代の変化に対応しきれない法規制や、公的機関による支援体制の乏しさを指摘する声もあります。また個人情報を利用することへの不安感が世間に根強いのも確かです。しかしそれは問題の本質ではありません。

 一番の問題はなにか。それは企業自身が失敗への恐怖を抱えているからだと私は考えます。

 かつて日本の製造業の礎を築いた先人たちは、資金もモノも情報が乏しいなか、無数の失敗に挫けることなく世界トップクラスの工業製品を生み出すことに成功しました。しかし、その後の世代である私たちは、先人が努力して築いた栄光の眩さに目を奪われるあまり、失敗がもたらす価値を見失ってしまったように思えてなりません。

 私の専門であるアナリティクスも不完全なデータと限られた時間の中で、仮説と検証のイテレーション(反復)を愚直に何回転もさせることでしか、確かな成果がつかめない世界です。つまり失敗を糧とする領域といっても過言ではありません。

 もちろん失敗に価値を置く領域はアナリティクスには限らず、立ち上がったばかりの新しい分野では、その傾向は強くなります。私は常々、大学での授業やイベントなどで接する若い世代に対し「もしスタートでつまずいても諦める必要はない。挑戦する心を持ち続けられればきっと道は開ける」と伝えてきました。

 いまは同じことを日本企業で働くみなさんにも伝えるべきだと考えはじめています。失敗の恐怖を克服するのは、スピード感を持って適切な分野に必要な投資を行い、ダメージの少ない「小さな失敗」を何度も繰り返すほかありません。その勇気を持てる企業や人だけが、未来の版図を塗り替えられるのです。

 うかうかしていると、それと気づかぬうちにグローバルレベルで沸き起こるイノベーションの大波に飲み込まれてしまいます。そうなってから狼狽えていたのでは遅すぎる。

幸い、IIoTによるイノベーションはまだ始まったばかりです。いち早く勇気ある一歩を踏み出せた企業には、それに応じた大きな見返りが期待できるでしょう。企業規模の大小は関係ありません。私はIIoTにおける日本企業の奮起に期待するのはもちろん、その意欲を全力で支援をしていきたいと考えています。

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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近年テクノロジーと数理モデルによってもたらされるアナリティクスが、ビジネスを大きく変えようとしている。データの高度な活用から次の打ち手を見出す力、アナリティクスの決定的な優位性を最前線から解説する。

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