「水素インフラサプライチェーンの早期構築は必然」
誰もが言うが、具体策は進まず
燃料電池車の普及について、産学官の各方面への取材を続けている。
そこで感じるのは「水素社会に対する“温度差”」だ。
特に、水素インフラについて、その“差”は大きい――。
燃料電池車は、特殊なクルマだ。なぜなら、既存の自動車向けインフラが全く使えないからだ。そのため、燃料電池車の普及に際して、量産車と水素インフラは「鶏と卵」と称される。EV(電気自動車)の場合も、こうした「鶏と卵」論がある。だが、EVは一般住宅や事業所で既存インフラによる充電も可能であり、「急速充電器の数が増えないから、EVが普及しない」という考えは不自然だ。
水素インフラに関する“温度差”。
その発生源は、大きく2つあると思う。
ひとつは、「地産地消」。もうひとつは、いまさらながら…、「規制緩和」だ。
本稿では前者について考察する。
「副生水素」で燃料電池車
約50万台分の供給を賄える!?
「人口約100万人に対して、クルマが約50万台ある。現状で、仮にすべてのクルマが燃料電池車になったとしても、水素の供給は市内の副生水素ですべて賄うことができる計算だ」
北九州市・環境局・環境未来都市推進室・環境産業推進担当係長の正野謙一氏と、同室・政策係長の大庭繁樹氏は、「市として考える肌感覚」という前提で、副生水素の「地産地消」の可能性をそう語った。副生水素とは、石油製品や鉄鋼等の生産工程で、副次的に発生する水素のことだ。
お二人の名刺には、小熊のようなキャラクターが、白色と黒色がペアで描かれている。白色が「ていたん(“低炭素”の語呂合わせ)」。鼻と口がカタカナの「エコ」となっている。黒色のほうが「ブラックていたん」。鼻と口が「エゴ」である。ふたつの「ていたん」には、同市の歴史が深く刻まれている。
北九州市と言えば、明治初期に日本の産業革命の火を灯した官営八幡製鉄所創業の地だ。また、高度成長期には「公害の街」から、企業、行政、そして市民一人ひとりの改善努力によって「クリーンな工業都市」へと生まれ変わった、世界でも希有な地域でもある。