先陣を切ったのは、中国メーカーだった。
中国の独立系自動車メーカー第2位、BYDオートは12月15日、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)「F3DM」の販売を開始した。
PHEVは、家庭の電源からも充電可能なハイブリッド車(HV)。いわば従来のHVを電気自動車寄りにしたもので、燃料消費、排出ガスがさらに少なく、次世代エコカーとしてトヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、ゼネラル・モータースなど各社が開発を競っている。
これらのなかで最も先行していると目されるのがトヨタで、同社は当初2010年としていた市場投入予定を09年に繰り上げた。BYDオートはそのトヨタを出し抜き、“世界初の量産PHEV”という栄誉を勝ち取ることとなった。
BYDオートは、リチウムイオン電池で世界3位、携帯電話用では1位のシェアを誇る電池メーカー、BYDグループの傘下にある。同グループは、08年9月に著名投資家のウォーレン・バフェット氏が10%出資したことで注目を集めた。PHEVの性能のカギを握るのはまず電池であり、その面からいえば、技術力は侮れない。
F3DMは、電気のみの走行モードで航続距離100km、最高速度160km/h。フル充電時間は7時間以内、10分以内で50%充電が可能とされている。「スペック的には、日本勢や欧米勢が目指しているところとほぼ一致する」と、ある日系メーカー関係者はいう。なお価格は約15万元(約195万円)。ちなみに、トヨタが中国で販売している「プリウス」は約26~27万元(約340~350万円)で、07年の販売台数1000台である。
一方で、「PHEVは繊細な制御が必要。リチウムイオン電池には加熱などの問題もあるが、安全性は大丈夫なのか」(同関係者)、「販売後のサービス体制面が疑問」(別のメーカー関係者)といった指摘もある。総じて、「技術の詳細が不明なため、現時点では未知数」というのが、日本の関係者の評価だ。
しかし、少なくとも中国における“旗頭”としての意味は大きい。エネルギー不足と環境汚染に悩む中国政府は、HVを主な対象としてエコカー購入に計200億元(約2800億円)の補助金を付与する政策を、来年初めにも交付する見込みだ。ハイテク産業育成のためでもあるのはいうまでもない。BYDオートが本拠を置く深セン市をはじめ、各地方政府からメーカーへの開発補助金もある。これらを受け、地場メーカーが続々とHV参入を表明している。
BYDオートは、2010~11年頃には米・欧でもF3DMを販売する計画だという。中国エコカー戦略の“尖兵”として、その真価が問われることになりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)