中国政府は3月28日、中長期戦略である新シルクロード構想「一帯一路」の詳細を公表した。これにより、対象エリアやプロジェクトの基本構想(「推動共建絲綢之路経済帯和21世紀海上絲綢之路的原案与行動」)が明らかになった。

 政治、経済、安全保障と中国の思惑を満載した新シルクロード構想は、アジア、欧州、アフリカ大陸とその海洋を舞台に、東アジア経済圏、欧州経済圏、この2つの経済圏の間に存在する内陸経済圏と、3つの経済圏により構成される。

 その中でも陸のシルクロードとして重視されるのが、①中国-中央アジア-ロシア-バルト海を囲む欧州、②中国-中央アジア-ペルシャ湾を囲む西アジア、③中国-東南アジア-南アジア-インド洋のルートであり、海のシルクロードとして重視されるのが、④中国-南シナ海-インド洋/太平洋-欧州のルートだという。

 また、中国国内のいくつかの都市を重要な窓口として指定した。中央アジアやパキスタンを経て南アジア、西アジアに抜ける要所となる新疆ウイグル自治区を、商業や貿易の中心を担う新シルクロード構想の核心に据えた。また、福建省を海のシルクロードの核心に据え、自由貿易区を建設する。

 プロジェクトの重点は、港湾、エネルギー、通信、交通などのインフラ建設や、国際輸送の強化などのほか、貿易障壁の解消、原子力発電の開発、農水産業へのテコ入れなどを盛り込んだ。そして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が融資を担う――。

「世界の工場」が終息した今、
雇用を守るため止むに止まれず

 さて、中国がイニシアチブを握る新シルクロード構想は、中国の国際社会への影響力増大ばかりが注目されるが、ひとたび国内に目を向けると「崖っぷちの中国」があぶりだされてくる。そこには、やむにやまれず新シルクロード構想を打ち出したという切迫した事情がある。

「つい先日、広東省に出張に行ったのですが…」と話すのは都内のシンクタンクに在籍する中国人女性だ。仮の名前を陳さんと呼ぶことにしよう。この陳さんが明かす現地の状況は、つい数年前の「活況呈する中国経済」とはほど遠いものだった。

 広東省では今、閉鎖する工場が少なくない。経済発展に伴う人件費や物価の上昇に加え、近年の地価高騰や通貨切り上げで、中国沿海部では生産の維持が困難になった。中国はまさしく「世界の工場」に終止符を打とうとしており、繊維工場や電子部品工場が相次いで倒産している。経営者が夜逃げするなどのニュースも決して珍しいものではなくなった。