国際通貨基金(IMF)は、1月28日に発表した「世界経済見通し修正報告書」(World Economic Outlook Update)において、2009年の世界経済成長見通しを、08年11月時点での見通し2.2%から大幅に下方修正し、0.5%とした(【表1】参照)。これは第2次世界大戦後で最低の成長率だ(この値は購買力平価GDPで加重平均した値であり、市場為替レートを用いた加重平均では、マイナス0.6%になる)。

【表1】IMF「世界経済見通し修正報告書」による経済成長見通し
いくら何でも楽観的過ぎる政府のゼロ成長見通し

 09年の成長率見通しは、アメリカがマイナス1.6%、欧州がマイナス2%、イギリスがマイナス2.8%、日本がマイナス2.6%、中国が6.7%などとなっている。日本の数字は、08年11月時点の見通しではマイナス0.2%だったので、2.4%ほど下方修正されたことになる。新興工業経済地域(アジアNIEs)の見通しは、11月の見通しから6%も引き下げられ、マイナス3.9%となっている。

 2010年の世界経済の成長率は3%になるとしているが、「見通しは非常に不透明で、強力な政策が実施されるかどうかにかかわっている」としている。

 日本のマイナス2.6%という数字は、戦後最悪である(暦年ベース実質成長率でこれまで最悪だったのは、98年のマイナス2%)。中国についての見通しは、社会の安定を維持するための最低ラインとされる8%をかなり下回るものとなっている(なお、中国国家統計局が1月22日に発表した08年10~12月のGDPの実質成長率は、前年同期比6.8%だった)。

経済見通しは
おしなべて楽観的ではないか?

 ダイヤモンド社から2008年12月に刊行した『世界経済危機 日本の罪と罰』において、私は、IMFによる09年の日本の経済成長率予測値マイナス0.2%は低すぎると指摘した(同書192ページ)。その後判明した事実の前で、IMFは見通しを改定せざるをえない状態に追い込まれたわけだ。ただし、これでもまだ楽観的なのではないかと考えられる。

 それでも、日本の公的な見通しに比べれば率直と言える。日本銀行は、1月22日に、09年の実質GDPの成長率見通しを、08年10月時点の見通しプラス0.6%から2.6%下方修正して、マイナス2%に改訂した(なお、08年度は0.1%からマイナス1.8%に改訂している。「経済・物価情勢の展望」の中間評価)。一般には、これは事実に即した見通しへの改訂と言われているのだが、IMFの見通しに比べれば楽観的である。政府の経済見通しにいたっては、09年の実質成長率をゼロ%としている。

 以上を見ると、さまざまな機関による経済見通しを、あまり信用できない状態になっていると言わざるをえない。予測者側としては、あまりに悲観的な見通しを発表して世間を騒がせたくないと考えているのかもしれない。あるいは、あまりの異常な事態の進展に、その意味を評価できないでいるのかもしれない。

 経済政策に責任を持つ機関の立場からすれば、あまりに悪い見通しを発表すると、「何も対策を打たずにこうした事態を放置するのか」という批判を受けかねない。日本政府のゼロ%成長見通しには、そうした配慮が強く働いていると思われる。アメリカ議会予算局CBOは、「政策を行なわない場合」の見通しを発表している。現在のような事態では、そうした見通しのほうが事態の本質を把握しやすいと言えるだろう。

 以上の問題の他に、方法論上の問題もある。さまざまな経済指標が前年比パーセント表示で2桁という規模で落ち込んでいるとき、経済成長率をこれまでと同じような精度で論じても、意味がない。それよりは、なぜこうした見通しになるかというメカニズムを説明するほうがずっと重要だ。