中国、ロシア、イランの暴走を
止める力はもうアメリカにはない

 冷戦時代は、アメリカのどの都市にもソ連のICBMが三〇分で到達する可能性があったから、一般市民にとっても外交は非常に身近な問題だった。だが冷戦は終わった。アメリカ人はいまほかに心配するべきことがある。まずは自分自身だ。

 だとすれば、アメリカが総じて世界に背を向ける時代に突入したのも驚きではない。その論理は表面的だが説得力があり、政治的に強烈なアピール力がある。だから少なくとも一期目のオバマは、外交政策で高い支持を得ていた。

 また草の根保守派運動ティーパーティーや、ランド・ポール上院議員など自由主義的な考えを持つ共和党議員は、一九七〇年代にジョージ・マクガバンがベトナムからの撤退を訴えて、「アメリカよ、帰ってこい」と唱えたのと似たスローガンを訴えている。

 これまでの経過を見る限り、何をやってもアメリカは黙認するだけだと見込んで、世界秩序に挑戦する行為は増える一方だ。

 バシャル・アサドは今後もシリアの独裁者として君臨し続けるのか。だとすれば、それはレバノンやイラク、ヨルダン、イスラエルにどんな影響を与えるのか。

中国政府は、世界の海上輸送の三分の一が通過し、世界屈指のエネルギー資源が眠る南シナ海を中国の湖にしてしまうのか。

イランは核兵器を獲得するか、獲得に限りなく近づき、危機感を覚えたサウジアラビアまでが独自の核開発に乗り出すのか。プーチンはNATOの弱腰に乗じて、旧ソ連諸国への影響力をいっそう強めるのか。

 中国経済のバブルが崩壊したら、あるいはユーロ圏が再び激しい不況に見舞われたら、あるいはアベノミクスが抵抗勢力によって本格的な構造改革を阻まれて失敗に終わったら、アメリカ経済は世界経済を牽引できるのか。

アメリカが世界秩序を維持する役割を拒否するなか、悪夢のシナリオの現実味は高まっている。