南シナ海で
フィリピン、日本を脅かす中国
中国が南シナ海の領有権を主張してきた背景にもこうした考え方がある。その歴史的根拠は、一九四七年に国民党政府が公布した地図に描かれた破線(九段線)だが、中国は国連海洋法条約に基づく二〇〇海里の「排他的経済水域」も中国の排他的軍事権があると主張する。
明らかに同条約の意図的な読み誤りだが、国連は政治的にそれに反駁する立場にない。さらに中国は、政治的賄賂などを使ってカンボジアのような従属国家を手なづけ、東南アジア諸国連合(ASEAN)が共通の海洋ルールを策定するのを阻止してきた。
また漁船や沿岸警備隊の艦艇(多くは武器を隠し持っている)を使って外国の軍艦に嫌がらせをしたり、外国の海域に侵入させたりしている。南シナ海の一部環礁とバリアリーフを占拠して、そこに常駐の前哨基地も築いた。
「どこまでやれば『これで十分』と言うのか」と、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領は二〇一四年二月、中国の南シナ海進出に声を荒らげた。「世界じゅうが声を挙げる必要がある。ズデーテン割譲は、ヒトラーをなだめて第二次世界大戦を防ぐためだったが、逆効果だったことを思い出すべきだ」
通常、「これでは一九三八年の繰り返しだ」と警告するのはイスラエルと決まっている。だが、アメリカの撤退後、フィリピンのように意外な場所からミュンヘン協定を引き合いに出す声が挙がっている。われわれは世界的無秩序の瀬戸際にいるのだ。