「女性管理職を増やせ」
そう言われた男性役員たちの本音は…
長い営業幹部会議を終えた高橋は、廊下に出て大きくため息をついた。
「女性の活躍推進、管理職比率30%ねえ…」
歴史ある中堅規模の電気メーカー勤務の高橋は、中部日本エリアの営業部長である。現在50代。今終わったばかりの、部長以上を対象とした営業幹部会議で、役員からこんな話があったのだ。
「社長の方針で、わが社も女性社員の活躍推進を進め、2020年までに女性管理職比率30%を目指すことになった。各自担当分野でしっかりやってくれ」
安倍政権発足後、やれ、アベノミクスだ、3本の矢だ、女性の活躍推進だと言われているが、そうした政府の方針発表や、経済同友会からの「2030年までに女性管理職比率を30%に」という宣言に社長も抗えなかったのだろう。
「おう、高橋、久しぶりにちょっと飲んでいかないか?」
振り返ると、同期入社で現在は西日本エリア担当の営業部長をしている斎藤が立っていた。
ビールで喉を潤しつつ、高橋のつぶやきが始まった。
「今日の役員の話、聞いたろ?まったく、困るよなあ。女性を管理職に3割なんて。そんなことしたら仕事にならないだろう?」
斎藤も続く。
「そうなんだよ。だって、入社してようやく仕事を覚えてきたなと思ったら、大事な時に産休育休でいなくなるだろ。その上戻ってきたら時短勤務なんていうのじゃなあ。実際、普通の営業担当だって続かないで辞めちゃっている子も多いだろ?女性を管理職に1人あげるだけだって大変なのに、3割なんて、夢物語だよな」
運ばれてきた刺身をつまみながら、2人は続ける。
「でもさ、最近の世の中、やたらCSRとかうるさいからさ、やらざるを得ないのかねえ」
「そうそう、今はコーポレートガバナンス報告書にも、女性役員の人数とか、女性管理職比率とか書かなきゃいけないらしいよな」
「確かにきついよな。すごい低い数値とか、書きにくいしさ」
「それに最近、ソーシャルメディアとかですぐに文句言われちゃうらしいからな。先日もほら、A産業はブラック企業とか騒がれて、ウェブサイトが炎上したんだろ」
「そうだな、そうならないように、やらざるをえないんだろうなあ。…仕方ないか」
「うん、…仕方ないな」
2人はまた大きなため息をつく。
「ま、3割なんて絶対無理なんだから、会社として何とか穏便な落としどころを作って、嵐が過ぎ去るのを待つっていうことなんだろうな」
「同感、同感。あ、お姉さん、ビール、お代わり」
「…それにしてもさ、女性の活躍推進って、うちの営業は無理だよな」
「そうだな、やるなら人事とか、それこそCSR推進室とかさ、管理部門で何とかやってほしいよな」
「そうだよな、俺たちのところには厄介なものを持ち込まないでほしいよな…」
「ま、そういうことだな…」