「米株価は要警戒」と発言した
イエレン議長の勇気と誠意

 さて、先週水曜日の5月6日、米国FRBのイエレン議長は、IMFのラガルド専務理事との対談形式の講演で、米国の株価について「バリュエーションが高い」ことを警戒していると発言した。

 この発言は、その直後に株価の下落をもたらしたが、米株価は、週末には良好な雇用統計データの発表に反応して大きく戻った。

 S&P500のPER(株価収益率)で、歴史的に高水準の目処とされる20倍を上回っている現在の米株価の水準が割高ゾーンにあることに、常識的には頷ける。とはいえ、中央銀行トップの立場を考えると、これは勇気のある発言だ。日銀では、四半世紀以上にわたって黒田総裁以前の総裁にはできなかった種類のものだ。

 推測するに、これは、影響と効果を相当に計算した上でなされた、周到な準備に基づく発言だろう。

 発言の直接的な効果が株価に対してネガティブであることは疑いないが、他方、背景には「株価が高騰しすぎない方が、金融緩和を長く引っ張ることができる」という金融緩和継続への意思が感じられた。株式市場が最も恐れているイベントは、FRBによる利上げの開始とその影響なので、イエレン発言は、株式の投資家にとって、総合的に見てそう悪いものではなかった。

 だからこそ、週末に発表された米雇用統計の好調に、株価は素直に反応することができたのだと考えられる。

 効果と影響を考えると、イエレン氏の発言は、株式市場及び米経済に対して、FRBの政策のオプションを幅広く確保しながら、懸念される株価上昇のスピード調整を行う点で、なかなか巧妙なコミュニケーションであった。

 同時に、頭が熱くなりがちな株式投資家に対しては、「株価水準は必ずしも安くないのだから、気をつけなさい」というメッセージを届けたのだから親切だ。かつてのグリーンスパン元議長のように、「バブルは、はじけてみるまで、そうとは分からないものだ」と開き直るよりは、何倍も誠実だ。