サブプライム問題が事態をこじらせているとはいえ、米国で景気が減速し、利下げが進み、経常赤字国通貨のドルが下落する。これは景気・金利・為替サイクルの歴史的、古典的なパターンだ。ドル円相場は、米景気やサブプライム問題の着地が早期に確認されるなら、日米金利の予想格差から判断して、105~110円を下値に踏みとどまるかもしれない。しかし今年前半は着地点が見えないまま、先行き不安にたびたび駆られて、円高動意を見せる可能性が高い。105円、100円へと進むと、一般にはなじみの薄い長期為替予約、仕組み債などのポジション処理がさらに円高を招くリスクが潜んでおり、95円もありうる。
サブプライム問題は想定以上に深刻化した。米住宅部門の低迷も深く長くなり、米国経済は今年前半に1.4%、後半も1%台後半の成長ペースにとどまると見る。米景気の軌道がさらに低くなって悪影響が世界に波及し、英欧でも景気・金利サイクルのピークアウト感が強まりつつある。こうした変調を受け、2008年の主要通貨の動きは錯綜しそうだ。米景気サイクルに沿ったドル安局面とはいえ、ドルは早くから下落しており、すでにポンドやユーロに対して大幅に過小評価されている。それでも英欧の景気・金利が堅調なあいだは、ポンドもユーロも高止まったままだった。
上の2つのグラフの購買力平価、すなわち二国間で物価が同じになるように計算した為替レートの理論値から見て、ユーロは対ドルでも対円でも大幅高である。足元のドル安傾向を受けて、「ドル離れ」論を目にすることが多くなった。しかしこれほど割高なポンドやユーロをいまさら買って1~2年後に笑っていられるとはとうてい思えない。高過ぎるものはいずれ調整される。
2008年に英欧の経済成長はそれぞれ1.7%と1.5%に減速し、金利も低下するだろう。ポンドとユーロもようやく景気・金利を反映して、いやむしろ過大評価のぶんだけ明確に、調整・反落局面に移行する可能性が高まる。
ドルはサイクル的な上昇軌道に戻るには時期尚早でも、先進国通貨全般に対して持ち直すだろう。割安な資産を好んで買うバリュー投資家は無数にいることを忘れてはならない。円もまた対ドルで年前半には上昇しやすいものの、年後半には100~110円に押し返されるイメージである。しかし対ドル以外のクロス通貨取引からの円高圧力が重なり、対ポンド190円、対ユーロ140円も十分ありうると見ている。
(通貨ストラテジスト 田中泰輔)