しかし近年では、こうした典型的なリーダー像自体が疑問視され、より参加型でチーム主体のリーダーシップ・スタイルの有効性が注目されています。1990年頃、アメリカでは一足先に産業構造の変化(サービス産業の台頭)やグローバル化、ITの発達によるコミュニケーション変化が起こり、職場に求められる働き方が大きく変わりました。

 環境変化が速く、考えなければならない変数も多く、また多様な人と協力しなければ物事が進まない状況では、単純な指揮命令型のリーダーシップ・スタイルは奏功しません。一人の号令に巨大なピラミッド組織が従うのではなく、フラット化した組織の中で、チームで事にあたり、メンバー一人ひとりに活躍してもらわなければ間に合わない――。

 そのような職場では、メンバーに積極的な参加を促し、オープンに情報を共有し、皆の意見に良く耳を傾け、権限を委譲し、励まし育てるといった、従来とは違ったリーダーシップ・スタイルが成果をもたらすようになります。UC Irvineの教授、Judy. B. Rosenerはこのことを調査によって明らかにし、従来型の強いリーダーシップを男性的なもの、そして新しい時代にマッチする柔らかなスタイルを女性的リーダーシップと表現しました。 過去のステレオタイプに囚われない姿勢が重要だと言えそうです(※4)

(※4)谷口真美. "組織におけるダイバシティ・マネジメント." 日本労働研究雑誌 574 (2008): 69-84.

「リーダーシップ」を理解しづらい
女性ならでは事情も

 女性がリーダーになりたがらない構造のもう一つは、人間関係の作り方にあります。職場の人間関係の中で、必要な情報を得たり、影響力を持ったり、良い評判を得たり、支援されたりすることを通じて、人はリーダーになっていきます。

 ところが、多くの場合、男性と女性では人間関係の築き方が異なります。女性はこれまで組織の中でリーダー的なポジションを与えられてこなかったケースが多く、経営陣や他部署の管理職などとの接触経験が男性に比して少ないといえます。加えて、男女の職場でのネットワークについての調査研究によれば、一般に男女とも同性との方が広くネットワークを築く傾向があります。

 身近な女性の様子を見ていると、これには仕方のない側面もあります。男性管理職が「ちょっと飲んで帰ろう」という時、まず誘うのは男性の部下で、女性の部下を誘うのにはちょっと躊躇する人が多いようです。女性の方からランチなどに誘うのも、女性相手が多いようです。これら1つ1つは小さなことですが、積み重なると大きなネットワークの違い、リーダーの考え方やアドバイスに触れる機会の差異になっていきます。

 また、女性は、意図的にネットワークを築くのは嘘をついているように思えて嫌だと感じ、自分の人間関係を功利的に広げていこうとしない傾向があります。これらの結果、自分を評価し、支援し、引き上げてくれるような上の立場の男性と人間関係を築くことが少ないのです(※5)

 このため、男性の方が上の立場の男性からアドバイスや後押しを受けやす一方、女性は自分をリーダー候補として扱ってくれ、リーダーとしてのふるまいについて親身にアドバイスしてくれる存在を持ちにくくなってしまします。また、既にリーダーになっている人と親しく接する機会も限定的で、リーダー業務の実態やリーダーシップ・スタイルの多様性を見る機会が少ないのです。これも、女性がリーダーとしてのアイデンティティを持ちにくい原因の1つです。

「女性」と「リーダー」のステレオタイプの狭間でどんな態度を取っていいかわからなくなり、既存リーダーとの人間関係が少なくて支援が得られず、ロールモデルを見いだせない女性リーダー候補たち。この状態では、「自分に能力がない」「メリットがない」とリーダーになりたがらないのも、無理からぬことです。彼女たちは、決して仕事の責任を逃れたいわけではありません。

(※5)Ibarra, H. 1992. Homophily and differential returns: Sex differences in network structure and access in an advertising firm. Administrative Science Quarterly, 37: 422-447