会社経営の目的は
利益の追求ではない!
たとえば第2章に「利益は目的ではなく、手段である」という項目があります。筆者は長年にわたって企業経営者を取材する過程で、彼らがほぼ異口同音に「企業経営の主たる目的は利益を追求することである」などと語るのを、聞くとはなしに聞いてきました。筆者自身もそれを信じて疑ったことがなかったのですが、著者はそれを真っ向から否定し、次のように断言します。
利益とはいったい何であるか。経営において、ときどきそれが誤解されていることがある。
まちがってもしてはならないこと――それは、利益をあげること自体が会社経営の目的と化してしまうことだ。ときどき見られる例だが、企業経営の目的を利益追求、それも短期的な利益追求のみに置いているという会社は本物とはいえない。一昔前に「企業の寿命三〇年」という言葉が流行ったが、こういう会社の平均寿命はせいぜい三年か四年くらいのものである。
では、利益とは何か。企業にとって、利益とは目的という一面もあるが、何よりも大事なのは、利益は「結果」であり、「手段」と考えるべきである。私はよく、利益をガソリンにたとえる。会社という“自動車”を運転して、何時間以内に何のためにどこへ到着したいという目的や目標があったとき、その車を動かす“ガソリン”が必要になる。それが利益というものだ。
ガソリンがなくなれば、会社はエンストを起こして立ち往生してしまう。それでは困るのでガソリンという名の利益は欠かせないが、車を運転する本来の目的はガソリンを燃やすことではない。目的地に到達することである。
では、目的地とは何か。それは、我が社のステークホルダーに対する責任を果たすということである。いちばん身近なステークホルダーには「社員」という存在がある。社員に対して、恥ずかしくない月給やボーナスを支払えるかどうか。そのためには利益が必要であるということだ。もう一度くり返す。企業にとって利益は目的ではない。きわめて重要な手段である。(100~101ページ)
松下電器産業(現在のパナソニック)を創業し、“経営の神様”と謳われた故・松下幸之助氏が遺した名言の一つに、「利益とは、顧客満足の総和である」があります。そしてこのフレーズのあとには、「我が社が十分に利益を上げていないとすれば、それは十分に顧客満足を果たしていないせいだと思え」が続きます。
顧客満足を果たし、さらに顧客感動を実現すれば、顧客は納得して商品やサービスを買ってくれます。その結果、売上も利益も増える。逆に、売上や利益が一向に増えないのであれば、顧客満足、顧客感動を果たせていないということになります。利益を上げて成長する会社と成長しない会社の本質的な違いはここにあるのです。
では、だれが顧客満足を実現するのか。銀行でもなければ、マスコミでも証券会社でも、コンサルタントでもありません。ほかならぬ社員なのです。だからこそ、経営者はまっさきに社員に報いなければならない、というのが著者の“幸之助語録”に対する解釈でもあるのです。