感情を理解しない人は
他人を動かせない

 話題は変わりますが、ビジネスマンとして成功するための最も重要な条件は何か? そう問われたらあなたはどう答えますか。

 あるとき、ハーバード大学のMBAコース修了後10年以上のビジネス経験を積んで成功を収めているエリートたちを対象に、「ビジネスマンとして成功する最大の条件は何か」といった趣旨のアンケートが実施されました。その調査結果はじつに示唆に富むものだったそうです。なにしろ、85パーセントの回答者が、「コミュニケーション能力を含んだ人間関係力」こそが最大の成功条件だと答え、「仕事の能力」と答えた回答者は15パーセントにすぎなかったからです。

 著者自身、この調査結果を裏付ける光景を目にしてきました。新卒で外資系石油会社に入社した著者は、そこできわめて頭脳明晰な先輩たちに出会いました。もっとも、そんな秀才たちが出世の階段を登って行ったのかといえば、それはまた別の話でした。一人はメインストリームから外れ、何人かは辞めてしまい……結局のところ、たった一人の例外を除いてだれもいなくなってしまったのだそうです。

 仕事のスキル、論理性、知性などの点で、彼らの右に出る者はいなかった。だが、彼らには根本的な問題があった。「人間関係力」が欠けていたのだ。上司に対しても恐れず臆せず自分の意見を主張し、相手を論破することはできる。だが、まわりの人をして「あの人となら一緒に仕事をしたい」「あの人にならまた会いたい」「あの人についていきたい」と思わせるような人間的魅力を、彼らは持っていなかったのである。

 ケンタッキー・フライドチキンの創業者、カーネル・サンダースは次の言葉を残している。

人は論理により説得され、感情と利害により動く

 人は感情的な動物であって、勘定や論理だけでは動かない。では何が必要かというと、「論理+感情=情理」、これで人は動くということだ。論理を重視しながらも、「情理」に軸足を置く。経営者に必要なのはこのバランス感覚だろう。(243~244ページ)

「利益は目的ではなく、手段である」の項で、良い意味で常識を裏切られたのと同様に、第2章「人間関係力が成功のカギを握る」という項目においても、読者は既成の概念を覆さえるはずです。

 理論と実践とをバランスさせつつ体系化した本書は、思い立ったらすぐに開けるように、いつも手元に置いておきたいものです。経営の原理原則は、現場で実行に移されなければ何の意味もないからです。マネジメントにおいていちばん肝心なのは、「実行する」ことなのです。