「大塩平八郎にしても西郷南洲にしても、だいたいちゃんとした人物は殺されている。まともに生きながらえる奴はどこかインチキなんですよ。このままだったら、私もインチキじゃないかと思うよ」
事務所にチェ・ゲバラの肖像を飾っている亀井静香はこう語る。このままでは死ねないということだろう。
安倍晋三が歯がゆくてしょうがない
安倍晋三を「弟のようにかわいがってきた」という亀井は、安倍が首相になった経緯を、「安倍は、右バネでは総理になれないと思っていたら、なってしまったんです。安倍を総理にすることに一生懸命になったのは、私の子飼いの連中ばかりで、いい奴だし能力もある奴らですが、彼らには経済政策、財政政策、外交政策をきちっとやらせる力はない。だから安倍が総理になって、真空地帯ができてしまった。小泉(純一郎)政権以来、竹中平蔵のような奴らと新自由主義に乗っかった役人が取り囲んでしまった」と分析する。
亀井はそれが歯がゆくてしょうがない。亀井にあって小泉や竹中、そして安倍に決定的に欠けているものは「弱者びいき」である。
沖電気を解雇された田中哲朗がそれを不当として闘っている「ニュース」の1999年2月号に、亀井と田中が並んで写っている写真が載っていて驚いた。
18年間も沖電気の門前に立って、ギターを弾きながら不当を訴えてきた田中のことが同年10月24日付の『朝日新聞』に出て、それを読んだ亀井が田中に会いたいと言ったのだという。田中の記憶に基づく11月1日昼の会見記が「ニュース」に載っている。
亀井 ご苦労さんです。新聞で記事を見て凄いことだと思ってご足労願った。(握手、名刺を2枚くれる)。
田中 お会いできて光栄です。今まで自民党は「自由民主党」という名前しか好きでなかった。これから亀井さんが好きになれれば良いなと思って来た。左眼が失明していて、摘出するかという状態だ。つぶったままの見苦しい状況で失礼する。
亀井 どうしてそうなったか。
田中 眼底出血から、網膜剥離に至った。目は見える間見れば良いし、命はある間生きれば良いと思うことにしている。
亀井 私もこっちの眼(左眼を指す)がほとんど見えない。あなたが一人で頑張っているのを知って感銘を受けた。
以下、興味深いやり取りが続くが省略する。それにしても、いくら感銘を受けたとはいえ、わざわざ田中を呼んで会うとは!
こうした思いもよらない行動をとるところに、亀井らしさがあるのだろう。