CPIだけでは見えてこない
「ステルス・インフレ」の姿

 しかし釈然としないのは、物価上昇の鈍化を示すCPIと、我々消費者たちの実感との乖離である。その実態を解き明かそうとしているのは、一橋大学経済研究所経済社会リスク研究機構の阿部修人教授だ。

 2015年3月発行の同機構のニューズレターNo.3のエッセイのなかで、全国消費者物価指数(CPI)に新商品の情報がほとんど含まれていないことと、「店舗単位でみると、多くの商品が一年間の間に入れ替わっている。新商品の価格は、特に消費税率改定後は既存商品に比べ高くなっている傾向があり、それが単価指数を引き上げている」と指摘。日本全国4000店舗のPOSデータに基づいて計算している「SRI一橋大学消費者購買指数」の新たな指標として、2015年5月28日から、商品の容量変化や新商品と旧商品の交代が物価に及ぼす影響を反映する「消費者購買単価指数(暫定版)」を公表している。

 日用品、食品、そして不動産などと多岐に渡る物価上昇のトレンドは、そもそも政府の金融政策と密接に関係している。日本銀行は2014年1月22日に発表した内閣府、財務省との共同声明「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」のなかで、「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていく」と認識し、物価安定目標を消費者物価の前年比上昇率で2%と設定。長期的な物価安定目標を設定することで、デフレからの脱却を図る方針を明確にしている。

 また、2015年4月30日に発表した「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」においても、今後の消費者物価の前年比上昇率の動向について、「当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、『物価安定の目標』である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、……(中略)……2016 年度前半頃になると予想される」と展望し、日銀としてはそのために「必要な時点まで、『量的・質的金融緩和』を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」との基本的見解を示している。こうした政策方針が前提としてある以上、物価上昇は粛々と進んでいくと言っていいだろう。

 毎月公表されるCPIを見ていると、物価上昇は一段落したのではと考えてしまいがちだが、実際には様々な商品で価格改定がなされており、新商品や容量変更など、CPIに反映されない姿で、物価は着実に上昇している。我々消費者も「ステルス・インフレ」の現実と向き合い、家計を考えていかなければ、「ゆでガエル」のように、気づいたら取り返しのつかないことになっているかもしれない。