日本は1952年に当時中国の正統政権と見なしていた台湾の中華民国と「日華平和条約」を結んだが、その第2条で台湾、澎湖諸島、新南群島、西沙諸島に関する権利を放棄した。第2次大戦の終結後、中華民国(蒋介石の国民政府)は南沙諸島中最大で、唯一水が出る太平島に軍艦、部隊を送り接収していたから、2国間条約で日本がそれを放棄したことは、中国に対して放棄した、と考える方が妥当と考えられる。

 だが当時北京の中華人民共和国政府は蒋介石政権を「偽政府」と呼び、それが他国と結ぶ条約等は無効だ、としていたから、いまさら「日華平和条約」を持ち出して領有権の根拠としにくい皮肉な状態だ。

 日本としても、放棄した領土の件で「中国に渡した」などと言って、他の諸国に恨まれるのは馬鹿気ているから、「帰属は未確定」というのが公式の立場だ。もし日本政府が南沙諸島でフィリピンが支配している島々を「フィリピン領土」と認定しているのなら、同国がそれを防衛するのを、武力行使に至らない範囲で支援するのに若干の理があろうが、日本も米国も「フィリピン領」と認めていない島々をフィリピンが支配するのを支援するのは理屈に合わない。

フィリピンが望むのは
事実上の「日比同盟」締結か

 6月4日の安倍・アキノ会談後の共同宣言では「フィリピンでの災害救援時の自衛隊の法的地位を定める検討を開始」「安全保障環境に関する情報の共有」「安全保障に関する政策の調整」「共同演習・訓練の拡充を通じ相互運用能力の向上」「能力構築の支援」が表明され、また同日造船会社ジャパン・マリンユナイテッドとフィリピン政府間で日本のODAによる巡視船10隻(128億円)の建造契約調印も行われた。

 防衛省はフィリピンでの自衛隊の法的地位を定めるのは「主として災害救援のため」としているが、災害救援が目的なら、災害が起きるのはフィリピンだけではないから多くの国々と地位協定を結ぶ必要があるはずだ。アキノ大統領は翌6日の記者会見で「我が国の戦略的パートナーは米国と日本だけだ」として「軍同士の交流」の必要性を訴え「相互運用性が重要となる。時期が来れば共同作戦、共同演習も必要となるだろう」と語った。これは明らかに同盟関係だ。

 フィリピンでの自衛隊の法的地位は、同国が米国、オーストラリアと結んでいるVisiting Forces Agreement(訪問部隊協定)と同様のものに多分なるはずで、自衛隊員の出入国や装備の持込みの手続きの簡素化や非課税、公務執行中の罪や自衛官同士の罪に関する裁判権は日本にある、などが定められると考えられる。

 フィリピンは憲法で外国軍の常駐を禁じているため、自衛隊の大部隊がフィリピンに基地を置き、駐留することは考えにくいが、随時派遣や交代派遣などの形で頻繁に「訪問」することを予定するからこそ、地位協定が必要になるのだろう。米軍は部隊を交代させることで「常駐ではない」としている。

 米国は旧宗主国でもあり、1951年以来米比相互防衛条約が続き、2014年4月には新軍事協定も結ばれたから、フィリピンに良い顔をしたい。だが、米中の経済関係は絶大で、中国との決定的対立は避けたいから、フィリピンが海上防衛の援助を求めたのに対し、船齢46年の元沿岸警備隊のハミルトン級巡視船1隻と、同20年のサイクロン級哨戒艇など廃棄する船艇を供与しただけだ。その代わりに日本に口利きをして新鋭の巡視船を供与させたのだろう。