「シングル・マン」

 この曲は、RCサクセションが本格的ロックバンドに変貌する直前のアルバム「シングルマン」(写真右)の最後に収録されています。決してシングルヒットしたような曲ではなく、それどころか、アルバム自体、一時は廃盤の憂き目をみています。しかし、真に優れた音楽は、必ず時代が追いついて発見されます。“スローバラード”は、正にその象徴のような曲です。

 “スローバラード”は、タイトルの如くピアノのイントロでおとなしく始まりますが、途中、管楽器群が強烈なアクセントを加えます。タワー・オブ・パワー(米のファンク、R&Bのバンド)からの影響も感じます。

 それにしても、清志郎の声のチカラは脅威的です。その声から、日本語のチカラをも見せつけます。実況録音盤「ティアーズ・オブ・クラウン」(写真左)にも収録されたRCを代表する名曲です。

 1960年代後半以降、日本にも本格的なロック・バンドが登場し始めました。元来、器用な日本のミュージシャンたちの演奏能力は、瞬く間に上達して行きます。しかし問題は、言葉とリズムの関係です。

 英語は8ビートのロックに乗りやすい特性を持っていますが、日本語は歌謡曲には上手くマッチする一方で、ロックとの相性には疑問もありました。それは、敢えて比較するなら、オペラで言えばイタリア語が常識だった時代に、ドイツ語でオペラを創ろうとしたモーツァルトの試みと同じです。

 忌野清志郎率いるRCサクセションこそ、ロックのリズムに日本語の美しい響きを自然に乗せることを可能にした最大の功労者です。真のJロックはここに始まる、と断言します。

天性のギタリストが奏でる
“歌のない歌謡曲”

◆高中正義“ブルー・ラグーン”

 高温多湿の日本の夏に、高中が軽快なギターで夏のメロディーを紡げば、そこに立ち上がるのは爽快この上なき音楽の楽園です。

 日本に限らず、ポピュラー音楽の世界を制するのは『うた』です。歌手がいて歌詞があって歌われる音楽こそが、大衆の心を掴むのです。

 クラシック音楽の世界でも、オペラこそが最高峰とされてきました。ところが、歌を待つ幕間の場繋ぎ的な位置づけであった交響曲が、今ではクラシック音楽の最高峰の如く位置づけられています。

 それと似たような状況が、ロックやポップでも散見されます。ヒットチャートは、歌で占められていますが、インストロメンタルの音楽が人々の心を直撃することもあるわけです。