日本人の特徴を表すときに、「本音と建て前」という言葉が使われることがあります。面と向かっているときは、本音を隠して建て前で発言する…そんな国民性があるようです。でも、抑えられた本音をどこかで解放させないとストレスが溜まってしまいます。その意味では、インターネットの登場は、「本音と建て前」から生まれるギャップを埋めてくれる救世主だったのかもしれません。

ネット社会がもたらした
「仮面の自由」

 インターネットの匿名性を利用して行われる書き込みの1つに、特定の企業・団体・個人に対する「誹謗中傷」があります。最近は、書き手が自分の名前をはっきり名乗るブログやSNSが流行してきました。その結果、自分の発言に責任をとって意見を述べるネットユーザーも増えています。けれども、一方で、インターネットはあくまでも匿名で本音を語るコミュニケーションの場だと考えている人も数多く存在します。2ちゃんねるなどの匿名型のネット掲示板の投稿数が非常に多いのもうなずけます。

 匿名型掲示板には、匿名性が守られることによってユーザー間の立場が平等になり、本音で活発な意見交換ができるというメリットがあります。その反面、本人の特定が難しいことを逆手にとって、非常に暴力的で無責任な投稿をくり返すユーザーを発生させる温床ともなっているのです。

人はなぜ
誹謗中傷するのか?

 居酒屋でサラリーマンが上司の悪口をさかなに酒に酔う。これはわりと見慣れた光景ですね。ここでの悪口は記録されることもなく、他のメンバーが知ることもなく、その場限りで消えていきます。この居酒屋談義がネット掲示板に舞台を変えたとき、「リスク・バズ」としての誹謗中傷が生まれていくのです。

・匿名性を利用して、自分の推測・憶測をまことしやかに書き込んで満足するユーザー

・その書き込みに触発され、さらに自分の発想を追記するユーザー

・面白い書き込みがあると宣伝してまわるユーザー

 こうした様々なユーザーを介して、ネット上に一度書き込まれた情報は、それが事実かどうかにかかわらず、あっという間に広がっていくのです。企業への誹謗中傷の書き込みは、社内の人間や元社員の手によるものがほとんどです。

 不平・不満のはけ口が居酒屋からネットに移った理由は、やはりその匿名性にあります。誰が書いたかわからない、という安心感が無責任発言を助長していることは否定できません。不平・不満は多かれ少なかれ誰にでもあるものです。でも、それが根拠のないデマを生み出すとき、企業の危機管理にとってシリアスな問題が生まれてくるのです。