内需減少に歯止めがかからず、収益の柱がぐらつく製紙業界。海外展開で出遅れた日本製紙は成長分野への積極投資で利益の底上げを目指すが、資産効率アップが大前提だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)
構造改革を目標に掲げる企業は珍しくないが、製紙業界のそれは実に切実だ。少子高齢化に加えて電子化という大きな波が押し寄せ、紙全体の内需はまさに右肩下がり。例えば、流通量の多い印刷・情報用紙の内需はピークだった2006年から約2割も減少した。従来構造のまま利益を伸ばしていくのは至難の業となっている。
印刷・情報用紙で国内トップシェアを誇る日本製紙も例外ではない。15年3月期に売り上げの約8割を稼ぎ出した印刷・情報用紙を含む紙・パルプ事業の営業利益は、10年前の3割強まで減った。
生き残るために不可欠なのは、市場に伸びしろのある海外への注力だ。現に、日本製紙と共に国内製紙企業の二大トップの一翼を担う業界首位の王子ホールディングス(HD)は08年以降、国内の新聞用紙や印刷・情報用紙など洋紙の生産能力を思い切って削減。同時に、ここ数年で立て続けに海外企業の大型買収に乗り出している。
一方、日本製紙は成長へのアクセルを踏み込むことができなかった。11年に発生した東日本大震災で主力工場の石巻工場が大破するなど、壊滅的な被害を受けたからだ。商品の損害などを含めると、被害総額はなんと約1000億円に上った。国内の紙の市場縮小も鑑み、洋紙の生産能力の15%削減を決めたものの、それでも設備の復旧だけで822億円を費やすことになった。
有利子負債は12年3月期に8383億円と、震災前の10年3月期から754億円も増加。株主資本に対する純有利子負債(有利子負債から現預金を差し引いたもの)の割合を示すネットDEレシオも、10年3月期の1.64倍から12年3月期には1.94倍まで悪化した。
このため、最優先事項は財務の健全化となる。海外での大きな買収にブレーキがかかったのはもちろん、「日本製」を武器に収益獲得が期待できるはずのベビー用紙おむつの海外進出にも出遅れた。
15年3月期の売上高における海外比率は王子HDの23%に対し、日本製紙は13%だったが、この比率の差は、業績の差も生んだ。
そもそも日本の製紙企業は木材チップなどの輸入原燃料のコストが重く、円安は逆風になりがち。ここ約1年で急激に円安に振れたことで日本製紙も打撃を受けた。
しかし、王子HDは海外展開が進んでいた分、グループ全体で為替変動の影響を吸収しやすくなっている。特に15年3月期は、震災後に買収したブラジル企業とオセアニア地区の事業がドル高でパルプの輸出を伸ばした。昨夏からのパルプ市況の良化も追い風だった。
これらが大きな原因の一つとなり、日本製紙の営業利益率は2.2%と、王子HDより1.3ポイント下回る結果になっている。