タイヤ工場で得た
「マネジメントに関する最初の教訓」

 念願どおり配属された工場で三交代の勤務についたゴーン氏は、ここで「マネジメントに関する最初の教訓」を得たという。日産において確実に生かされた教訓だ。

 私は生産現場の現実とマネジメント側の認識とのギャップが、沈滞した労働環境を作り出していると感じた。スーパーバイザーやマネジャーが従業員とともに現場を作っていかなければ、マネジメント側は会社で何が起こっているかが分からなくなる。現場の潜在的な生産力を正確に把握することはできず、会社の競争力を高める適切な手段を現場に導入することもできない。(41ページ)

 常に現場で言葉を交わすように心していたという若きマネジャーは、その2年後、700人を束ねる大型タイヤの工場長に登用される。若干26歳のことである。成果を出し続けたゴーン氏は、さらにわずか30歳で南米事業を統括するCOOとなる。

 それから15年後、45歳で日産のCOOに就いたゴーン氏は、日本の製造業として過去最大の赤字(連結純損失6844億円)を計上した会社を翌年度、過去最高益計上にまで押し上げた。そのプロセスの詳細は、本書できちんと再現されている。改めて振り返っていただきたい。

『ルネッサンス』を上梓した後、ゴーン氏はこう話していた。

「この本に込めたメッセージはきわめてシンプルです。日本の産業界は力強く回復を遂げることができる。私はその底力を信じているということです。
 日産は一企業にすぎませんが、日本の産業界がいかに早く、高いレベルに回復することができるかを示しました」

 いっぽうで、ゴーン氏は「ルネッサンスは今も進行中」「挑戦は継続中」と何度も釘を刺した。本書の帯にも「私の闘いは、これから始まる」とある。

 顧客第一の徹底、永続的な成長、業界再編の総仕上げ、後継者選び…と目の前には難問が横たわる。「私は仕事を未完のまま放り出すことはない」の言葉通り、“プロ経営者”はまだ挑戦の途上にある。