東京電力は電力小売り完全自由化へ向け、さまざまな企業とのアライアンス戦略を進めるが、この動きを固唾をのんで見守るのがガス業界だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

「売上高1760億円は半端な数字じゃない。どう動いてくるかによってガス業界の勢力図が大きく変わる」

 大手ガス会社幹部は、東京電力の戦略から目が離せないと警戒感を強めている。

 東電は2013年末に発表した新総合特別事業計画(新総特)で、22年度までの今後10年間の戦略投資とガス事業拡大について、具体的な目標数値を示している。

 戦略投資には合計7500億円もの巨費を投じる。内訳は老朽化した火力発電所をリプレースするために4500億円、燃料上流事業や海外電気事業で2300億円、その他エネルギーサービス事業やガス事業拡大などへ700億円だ。

 この投資によって22年度までに熱源転換等による需要開拓で4000億円、新サービスで240億円、全国での電力販売で1700億円、そしてガス事業を含む周辺事業で1760億円の売り上げ拡大を目指す。

 連結売上高が6兆8000億円を超える東電にとって、1760億円のガス事業売上高はわずかなもの。しかし、冒頭のコメントのように、ガス業界にとってはとてつもなく大きな意味を持つ。

 東電が目標とするガス販売量の拡大分は100万トンで、約12億立方メートルだ。これをガス業界各社の数字と比較してみると、なんと大手で業界4位の西部ガスとほぼ同規模であることが分かる。

 西部ガスの14年度の連結売上高は2086億円、ガス販売量は9億2100万立方メートルだ。顧客戸数は110万8000戸だ。

 14年度、東電のガス販売売上高は1219億円。大口の事業者向けに販売しており、22年度に1760億円が加わると売上高は約3000億円。ガス業界4位に躍り出ることになる。

 さらに5月以降、東電が矢継ぎ早に異業種と提携を進めていることも、ガス業界を刺激している。

 提携交渉をしているのは通信業界であればソフトバンクグループ、LPガス業界であれば大手のTOKAIホールディングスなどだ。さらに同じくLPガス大手の日本瓦斯とも提携交渉を進めている。

 こうした東電の動きは、いよいよ本格的にガス事業への投資が始まり、数値目標を達成させるために具体的な手を打ってくると思わせるには十分だ。

 東電が提携を進める理由は、16年4月の電力小売り完全自由化への対策だ。自由化されれば、商社や石油元売り、通信など異業種の新規参入が相次ぐことは確実。料金規制も撤廃され、価格競争とサービス競争がスタートする。