以前、中国で買ったぬいぐるみを枕元に置いていたら顔に湿疹ができ、皮膚科に通っても治らなかったという話を、日本人の友人から聞いたことを思い出した。中国では強い農薬を落とすための野菜専用の洗剤があり、多くの家庭でこの洗剤を使っていることは知っていたが、新品の寝具や洋服もまず一度洗ってから着ると聞いて、驚いた。

 黄さんはその専門学校で日本語を学んでいた。高校卒業時、成績はよかったのだが、大学に進学するほどの経済的余裕はなく、一時は看護師の専門学校に進学することも考えたが、「看護師は給料が安すぎる」という周囲の反対で断念。日本のアニメやドラマが好きで、「日本語を学べば都会に出て、よい就職先があるのでは」と考えて、日本語を学ぶことにしたという。2年間学んだといっても彼女の日本語は理解不能なものが結構あったが、日本には好感を抱いているようで、日本人女性(筆者)と初めて接触するのを楽しみにしていたと話してくれた。

両親が共働きで出稼ぎは当たり前
久しぶりに会った母の顔がわからない

 故郷はバスで6時間も離れた山間部。何も産業がない地域で、老人と子ども以外は沿海部に出稼ぎに出ているという。黄さんの両親も中学卒業と同時に広東省にある部品メーカーに就職。そこで出会って結婚した。1人っ子政策を実施している中国だが、農村では2人以上子どもを持つことが少なくない。黄さんにも姉と弟がいる。女の子が2人続いたので、おそらく両親は後継ぎである男の子が欲しくて3人の子を産んだのだろう。

 といっても、彼女は両親と暮らした記憶はほとんどない。祖父母と姉、弟と5人で暮らしていて、両親が田舎に帰ってくるのは1年に1回、春節(旧正月)のときだけだったからだ。

「小さい頃、両親のことはほとんどわからなかったです。祖父母もあまり親の話はしませんでした。5歳くらいのとき、おばあちゃんに『あの人、誰?』って聞いたら、それが母だったんです……」

 この話を聞いたとき、筆者は軽いショックを受けると共に、以前行った中国人の子育ての取材を思い出した。「やっぱりあの話は本当だったのか……」と。

 中国では一般的に男女共働きで、専業主婦は非常に少ない。育児の主な部分は自分か夫の祖父母に任せっ切りで、母親は出産後、仕事に復帰するのが普通だ。日本では考えにくいことだが中国では当たり前の現象であり、中国の祖父母も、孫の世話は自分たちの仕事だと思っている。「子育て=家族全員でするもの」という観念があるからで、母親1人に子育ての負担が集中することはない。そういう意味では、中国は働く女性が生活しやすい環境ともいえるが、農村の場合は状況が異なる。