あなたが事業を経営していたら、相続の際、個人の財産とともに、事業をどうやってスムーズに子どもなどの後継者に引き継ぐのかが重要な課題になります。もし失敗すれば、せっかく汗水流して大きくした会社の経営は一気に傾いてしまうかもしれません。古川勉公認会計士・税理士(古川公認会計士事務所)は、「事業承継に当たっては、相続税の節税の前に考えるべきことがある」と指摘します。

事業承継の準備なく勃発した
“先妻の子vs後妻の子”のバトル

八木 会社経営者にとっては、相続に際して、事業がはたしてうまく後継者に渡せるのかも、悩みのタネです。

古川 勉氏
古川会計事務所 所長
早稲田大学法学部卒業後、税理士試験・公認会計士試験合格。新和監査法人(現 あずさ監査法人)に入社。同社退社後、父の会計事務所に入所し、平成13年古川会計事務所代表就任。八王子を中心に、開業60余年の豊富な経験と相続申告500件以上の実績を誇る。また、顧問弁護士との連携を密にとり、充実の法務サポートを提供。“お客様の総合デパート”をスローガンに掲げ、生前贈与・相続税申告から事業承継まで幅広く対応している。

古川 そういう気持ちに「応える」ように、相続のノウハウ本などを見ても、「こうすれば相続税を少なくできて、事業承継もバッチリ」といったアドバイスをよく目にします。もちろん、節税できれば、それに越したことはないでしょう。ただし、こと事業承継に関しては、まずは「後継者が、問題なく事業を継げること」を第一に考えてほしい。あえて言えば、相続税対策は「二の次」くらいでいいのです。税理士がこんなことを言うのもなんですけど(笑)。

八木 やはり、事業承継はそんなに簡単なことではない、ということですね。

古川 最終的に、会社経営は守られたのですけれど、あとあと大きな禍根を残すことになった例をご紹介しましょう。戦後、製造業を起こして、売上規模数十億円に成長させた私の顧客が亡くなり、相続になりました。亡くなった時には会長になっていましたが、いぜんとして会社の株を4割以上保有していました。社長には長男が就いていて、会長亡き後は、当然、この方が名実ともに会社のトップになる予定でした。

八木 ところが、揉め事になってしまった。

古川 実は、家族関係がちょっと複雑で、会長には亡くなった先妻との間に子どもが4人、後妻の子も2人いたんですよ。社長になっていたのは、先妻の子どもでした。相続になるや、この先妻側と後妻側で、争いが起こったのです。