外資では異例となる企業グループの持ち株会社への資本参画を果たし、中国市場の開拓を急ぐ伊藤忠。成功すれば、瀬戸際に追い込まれた日本の食品、流通業界の救世主になりうるが、それには海千山千の出資企業をコントロールしなくてはならない。(「『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)

  2月27日、成田空港に1台の自家用ジェット機が乗り付けた。降り立ったのは、中国・台湾の食品流通最大手「頂新グループ」を率いる魏4兄弟の長男、魏応州。魏が「おじさん」と慕う伊藤忠商事の会長、丹羽宇一郎らと懇談するための来日だという。

 中国で5指に入るほどの富豪である魏は今、瀬戸際に追い込まれた日本の食品、流通業界の強力な助っ人として期待されている存在だ。そして、その頂新と蜜月関係を構築しているのが、いち早く中国の消費市場の開拓に乗り出した伊藤忠である。

 伊藤忠は2008年11月、700億円近い巨費を投じて頂新に20%出資すると決めた。伊藤忠の中国戦略は食品業界にとどまらない。翌09年2月には100億円で中国の複合企業大手「杉杉集団」に28%出資。傘下の中核企業でアパレル業界3位「寧波杉杉」には総経理(社長)を派遣。中国における内販の本格展開を進めている。

 2つの大型投資で特徴的だったのが、出資の手法だ。中国進出の場合、単独か現地企業と合弁会社を設立するケースが一般的だが、伊藤忠は直接、大手企業グループの持ち株会社に資本参画したのだ。

 伊藤忠の次期社長に内定している繊維カンパニープレジデントの岡藤正広は「長年にわたって、彼らと信頼関係を築いてきたからこそ、出資が受け入れられた」と胸を張る。

 また頂新とは02年に包括戦略提携を結んで以来、コンビニ、飲料、製パンなどの合弁会社を、日本の有力パートナーと共同で立ち上げるなど、親密な関係を築いてきた。食料カンパニープレジデントの青木芳久は「出資を機に、3年でさらに日本企業6~7社と合弁を立ち上げたい」と意欲を見せており、水面下では交渉が進んでいる。

 伊藤忠の中国戦略は、人口減少とデフレによって市場縮小の荒波にさらされている食品、外食産業にとって、かすかに見えた光明だ。

 安売り合戦で疲弊していく一方の日本の消費市場の未来は暗い。確実に市場規模の拡大が見込める中国で、いかに足場を築けるかが、今後の明暗を分けるといっても過言ではない。