『国家のエゴ』(朝日新書) 佐藤優著/聞き手・姜尚中 定価:778円(税込み)

 すでに衆議院を通過し、参議院で審議が進んでいる安全保障関連法案。同法案を巡っては野党や国民から「戦争のできる国になってしまう」といった反対の声が絶えないが、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は近著『国家のエゴ』(朝日新書)の中で、すでに日本は「戦争のできる国」になっていると指摘している。

 言うまでもなく、日本国憲法第9条では「戦争の放棄」を明記しており、統帥権の行使もされない前提となっている。にもかかわらず、誰が、どういう権限で戦争を始められるのだろうか?

「実は、2013年12月、“戦争決定機関”が創設されました。それが国家安全保障会議(NSC)です。メディアではしばしば、『日本版NSC』と呼ばれる組織です。根拠となる法律は、安全保障会議設置法を改正して成立した国家安全保障会議設置法です」(同書より)

 国家安全保障会議設置法に基づき創設された国家戦略の司令塔たる日本版NSC。しかし、実際NSCがなにをする機関なのかはっきりわからない人も少なくないだろう。中には火山の噴火や台風などの自然災害に対応する法律という受け止め方をしている人もいるだろうが、佐藤氏は「本筋は違います」と続ける。

「NSCは、内閣に設置され、内閣総理大臣を議長に、事態の緊急性や重要度によって会議に参加できる閣僚を限定し、日本にとって安全保障上の危機が起きたときに、外交交渉によって平和裏に解決するのか、武力を行使するのかを決める機関です。(中略)平たく言えば、戦争をするかしないかを決める組織なのです。この法律が成立したということは、日本が戦争のできる体制になっていることを意味します」(同書より)

 さらに佐藤氏は、NSCが機能するようになることで、日本が積極的に戦争をする場合もありうることが、NSC設置法の条文を読めば明らかだと懸念を示している。

 こうした状況下でも、戦争を起こさせないために国民ができることはないのか。佐藤氏は、国 家と個人の間に位置づけられる「中間団体」を作ることを提唱している。

 佐藤氏は、気の合う友人同士や、ボランティア団体といった、社会の中に存在する小さな団体のことを中間団体と呼び、その中間団体が強くなることで、社会全体が強靭になるのだと説いている。

 個人個人バラバラだと、国家が国民にさまざまなことを強制し始めたときに拒否することは難しいが、こうした中間団体を作っていけば、国家との間に良い意味で緊張感が生まれ、お互いに建設的な関係を築いて行ける、と言うのだ。

 戦後70年を迎え、「戦争を正面から考える」ことは避けられない今、同書は我々が“国家のエゴ”に振り回されずに生きるための必読の1冊となっている。

dot.より転載