バレット TMI事故後、それまで川に流していたトリチウム水を流さなくなった。科学的に問題ないと判断されたトリチウム水であっても、下流の住民たちが感情的にどうしても受け入れることができなかった。だから、蒸発させて処理した時期があった。

 今は川に流している。蒸発させれば雨になって下流の住民にも降ってくるので、同じと言えば同じなのだが、社会的政治的な観点から蒸発処理した時期があった。そういうものだ。科学的リスクと、一般の人々が抱く精神的リスクでは、全然違うものがある。科学の事実と人間の認識には大きな差がある。

「40年で閉鎖」に科学的根拠はない
重要なのは期間ではなく安全の確保

──日本の原子力規制委員会(NRA)は、「原子炉を運転開始時から40年で閉鎖する。特別に認可すれば60年まで認める」ということを原則化した。これは、米国の「40年ルール」を参考にしたものだが、米国では40年で閉鎖することを原則としているのか?

クライン それは違う。私がNRC委員長を辞すとき、既に半数の原発について60年までの延長が認められていた。NRCには40年を超えて60年まで稼働させることに関する評価プロセスが確立している。40年は、一つの節目にすぎない。(筆者註:現在、米国の稼働中の原発は99基、このうち60年までの延長が承認済みなのは73基)

バレット それはない。安全やリスクという観点からは、39年でも41年でも同じ。リスク管理が重要であり、40年が妥当かどうかの証明は、事業者側が行うもので、NRCがそれを科学的に審査し、合否を判断するということだ。40年は厳密な数字ではない。

──「40年」の根拠は、どのようなものか?

クライン 当てずっぽうだ(“It was a guess.”)。米国で原子力発電が始まったのは1950年代だが、当時まだ新しい技術でよくわからなかったので、他の産業分野を参考にして原発プラントに対しては「40年分の許可」とした。この「40年」には科学的根拠はない。どんな年数でも構わなかったのだが、保守的な数字として選ばれたのが40年だった。投資回収期間を考えた場合、1950年代の頃の感覚としては、40年程度であれば納得感があったということだ。

バレット 米国では、事業者が稼働させたい期間を申請し、それに見合った対策が講じられているかどうかを見る。100年でも1年でも、60年でも40年でも30年でも、規制当局としては構わない。申請した期間を安全に運営できることを証明すれば良い。100年ではコストが莫大になり、1年では投資回収できない。そうこうしているうちに、だいたい40年くらいが一般的なものとなっていった。これは、規制するNRC側ではなく、規制される事業者側の発意だ。