広瀬 記者クラブは、本当に気持ちの悪い世界ですね。私もある問題で中に入ったことがあるのですが、こんなことで記事ができるのか、とあきれました。

 海外ではそうした公報を「通信社」が配信していますが、マスコミはそのあとに、さまざまな視点で吟味し、自分たちの意見を加えて独自のニュースにしています。
 ところが日本のマスコミは、ジャーナリズムではなく単なる“政府公報係”です。

古賀 役所から資料のコピーをもらうだけで、基本的に取材コストはかからない。資料のコピー代でさえ役所が払ってくれます。出費がないから、日本の大手マスコミは異様に給料が高いんです。
 定年まで問題さえ起こさずに働いていれば、どんどん給料は上がりますし、運のいい人はそこから系列会社の役員などになります。天下りですね。だから、ヌクヌクした世界から抜けたくないのです。

広瀬 ジャーナリズムではないですね。朝日新聞のトップが安倍政権にあんなに媚びへつらったら、現場は安倍政権を批判するような記事を書けないでしょう。書いて問題を起こしても、社長が助けてくれないような会社では困る。
 みんな会社の中で生きていこうと思っているので、ストレートな記事は書かなくなる。仮に書いたら飛ばされる。私の知り合いのまともな記者が、何人も飛ばされました。いまは何も書けないでしょう。

安倍晋三は尋常ではない

古賀 マスコミの世界も悪いし、安倍政権も悪いのですが、なぜ安倍政権だけ巨大な力を持つのかが問題です。前の政権だって、その前の政権だって、やろうと思えば同じことができたはずじゃないですか。

 私はマスコミ側に「安倍さんはおかしい」「尋常ではない」という恐怖感があって、おびえていると見ています。
 普通はマスコミも大きな力を持っています。政権側には、マスコミに一斉に攻撃されたら大変なことになるという緊張感があって、マスコミを攻撃することには、おのずと限度があるのです。

広瀬 報道と政治家の間には、緊張関係がなければなりませんよね。

古賀 しかし、いまは一方的に安倍政権のほうがマスコミより強くなっています。そこには「安倍首相は本気になったら本当に殺しにくる」という思いがあります。

広瀬 安倍晋三というのは、英語で言えばクレイジーではなく、マッド(MAD)です。だって、国民が「やめろ!」ということばかりを平気でやれるなんて、正常な政治家ではありませんよ。

古賀 常識では測れないくらい滅茶苦茶なことをやってくる可能性がある、何をされるかわからないという恐怖感がマスメディアにある。
 だから、懐に飛び込み、仲よくなって内緒の話を教えてもらっていたほうが楽だという風潮になっています。

広瀬 人間には、やってはいけない一線というものがある。この政権は、すでにその一線を越えている。

古賀 民主主義が機能するいろいろな条件をどんどん壊しています。表向きには「戦争はしない」「アメリカとは一体化しない」などと言いますが、昨年の閣議決定前からの議論や議事録を見ていれば、何でもできるようになった経過がわかります。官僚から見れば、政権側が何でもできる状況にしたのがはっきりわかる書き方なのです。

広瀬 世論調査では、安倍晋三は全敗していますよ。それでも、意見をまったく変えません。

古賀 ただ、安保法案を見ていると、相当反対が大きかったこともあり、この間の「70年談話」は、安倍さんの内心では「大敗北」でしょう。自分の思っていることを何も書いてない。あれで支持率が5~6%戻りました。

「安倍さんって危ないんじゃないの」という雰囲気が強まっていたのですが、「意外と柔軟なんだ」と、一部の人に思われました。

 韓国とか中国も「こいつはおかしい」と思っているような感じがあって、朴槿恵(パク・クネ)大統領のほうも、まともにケンカすると大変なことになるから、下手に出ないとまずい、みたいな感じになってきています。
 これで日中韓首脳会議が開催できたら、「安倍さんが中国や韓国と戦争を起こしそうだとか言っているけど、ウソじゃないか」というふうになっていく可能性があります。

 こうしたとき、日本のマスコミは、きちんと裏を解説して報道をすべきですが、現在のマスコミには調査報道の能力がないです。
 しかも、トップは完全に日和っていて、「経営陣が現場に介入する」という先進国では絶対にあってはならないことが起きています。