これは、開店間際の飲食店を思い浮かべれば理解できる。開店間際の飲食店は、気合が入っており、最高のスタッフ、最高のサービス、最高の食材で顧客満足を最大化する。しかし、人気が出てきてあたりからチェーン展開を始め規模を拡大させてゆくと、アルバイト店員が増え、食材の質は落ち、味もサービスも落ちて負のスパイラル(コストダウンをしながらサービスを落とし、さらに客数が減ってコストダウンを繰り返す)に入る。

 顧客と約束したサービスと品質を永続的に維持し続けることは容易でない。ここが、模倣が当たり前といわれる流通業界で、競合と差別化し続ける最大のポイントなのだ。

差別化の秘密は価値の追求

 九州で関サバに出合った私は、東京に戻り、そのブランドが持つ価値とは何かを現場と考えた。調査した消費者は1万人を超え、市場からそのブランドはどのように見られているのか、また、競合とどこに違いがあるのかを調査した。

 また、全国の売場をまわり、店頭で働く販売員の人と議論を行った。私が驚いたのは、お客様と毎日接している販売員の人たちは、本社以上にブランドの良いところ、悪いところを熟知していることだった。「真実は現場にあり」ということをまざまざと感じた。

 しかし、現場の声にはいくつかの問題もあった。彼らは「課題の指摘」は的確だったが、「解決案の組み立て」は不慣れだった。現場というのは、「原因」が生み出す「現象」が現れる場だ。しかし、「現象」をいくら解決しても真の「原因」に近づかなければ課題は解決しない。例えば、現場というのは必ず次の3つのことを主張し、課題解決の方法は以下の3つだと言い切ることが多い。

(1)人が足りないから人を増やせ
(2)給与が低いから給与を上げろ
(3)本部は現場を分かっていないから現場に来い

 これらは至極まっとうな意見であり十分検討すべき課題ではあるのだが、残念ながら差別化戦略との因果関係は少ない。よく、現場の意見を聞きすぎ「木を見て森を見ず」の状況に陥ることが落とし穴である。「改善」(Do more better)は重要だが、「改革」のヒントは現場の声の積み上げからは出てこない。

 経営とは現場の細部に拘りながらも、常に大局的な視野からビジネスを複眼視し、全体最適を意識して組織システムを設計する技術である。現場の意見を集約してまとめることではない。

社内に出島をつくる

 九州出張は私に多くのヒントを与えてくれた。その一つが長崎の「出島」だった。出島というのは、1633年に、江戸幕府が武装と宗教活動を規制したオランダ人を集めた人工島である。この人工島は、これ以降200年もの間、日本と海外の唯一の接点となり、特殊な自治を行うことで独特の文化を生み出した。

 なかなか変われない組織を動かすためには、社内に独立機能としての出島を作る必要がある。小さな炎もやがては大草原を燃やす。大組織の中で、小さな炎を着火させるのが「出島」なのだ。