9月15日から9月23日の間、香港に出張し、毎年恒例となっている香港中文大学へも訪問した(第91回)。今年は、民主化を求める学生中心の大規模な抗議デモ「雨傘革命」からちょうど1年後であった。
香港中文大学は学生デモの中心的存在であり、ここから激しい抗議運動が始まった。だが、現在のキャンパスは、1年前のことが全く想像できないほど静かだった。学内には、民主化を求めるポスターがチラホラあるできるだけだ。キャンパスの中心部の広場には、民主化を訴えている少数の学生が集まっていたが、多数の学生は、それを気にすることもなく、早足で授業に向かっていた。
香港中文大学で「雨傘革命」メンバーの若者と面会
「香港の民主主義は、『AKB総選挙』のようなもの」
今回香港を訪問した「上久保ゼミ」の有志は、「学生の政治的影響力の国際比較」というテーマで研究をしている。雨傘革命の香港のみならず、オレンジ革命の台湾、数年前に学費値上げを巡って学生デモがあった英国、共産圏崩壊後に民主化が進んだ東欧諸国などの学生の政治的影響力を調査し、日本の現状を国際的な観点から分析しようというものだ。
以前、この連載で指摘したように、「大学生」は政治学的にいえば、日本を除く世界の多くの国で、政策過程における重要な「アクター」の1つである。「大学生」は政府に意思決定に強い影響力を持つ存在だということだ(第91回・2p)。諸外国では、大学生のデモ活動など政治的な意思表明は、世論に大きな影響を与え、政府がその扱い方を誤れば、不安定化してしまう。多くの国の政府にとって、無視することができない存在なのである。
香港中文大訪問では、「雨傘革命」の中心的役割だった学生自治会(Student Union)と學民思潮のメンバーだった学生と、その運動を支えた大学教授に、上久保ゼミの学生たちが面会を果たした。日本でも安倍晋三政権が目指した安保法制の成立を巡って、SEALDsという学生運動が盛り上がったこともあり、学生同士がさまざまな議論をして、大変有意義な時間となった。今回は、その一端を紹介し、他国の学生運動の事例も交えながら、学生運動のあり方、意義について考えてみたい。
さまざまな議論の中で、なにより驚いたのが、「雨傘革命」を主導した組織の1つ、「學民思潮」の存在だった。結成は2011年、発足時のメンバーは1990年代に生まれた中学生・高校生を中心としていた。発足時には500人、中学・高校のクラスメートの間に口コミで広がり最盛期には3000人の学生が参加した。そして、参加メンバーは「公民レッスン」と呼ばれる講義を受けて、「政治のしくみ」「民主主義」の理解を深めていくとのだという。