目の前で起きている「事実」を
後世に伝えよう

秋山 もう1つは、現実に起こっていることを記録に残していくことが大切な務めだと思います。
 チェルノブイリ事故から5年後の1991年、現地を取材したとき、ウクライナの医者が放射線の影響で死産した胎児を標本にして、保存しているのを見ました。

 このとき取材したVTRは残念ながら、日本の視聴者には受け入れられないだろうということで、放送はされませんでした。
 一番多いのが水頭症。それから欠損。耳、鼻、目、手足の指がない。起こったことについて科学的に検証しようとする姿勢に感嘆しました。

広瀬 日本の最近の医者は、お上や学会の指示だからか、そういうことをやらないけれど、そうした圧力に抗して、後世のために何が起こったか記録しないといけない。
 私に放射能の危険性を教えてくれたのは、亀井文夫監督がつくったドキュメンタリー映画『世界は恐怖する』ですが、広島・長崎に投下された原爆で、やはりそうした子どもや胎児たちのすさまじい被害が出ていることを映像で記録していました。

今年のノーベル文学賞を受賞したベラルーシのスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさんの『チェルノブイリの祈り――未来の物語』は、チェルノブイリ原発事故の被害に遭った人たちの証言を集めて、衝撃や悲しみなどを描き出した作品です。アマゾン総合1位になるなど、大きな話題を呼びましたね。

秋山 起こったことは、起こったことなのだから、何が起こり、どうなったのかを記録として残し、それぞれの持ち場で、次の世代に受け渡すことは義務であり責任です。
 今、関わりあっている現実に対し、自分がどう考えるのか。僕らが生きている意味というのは、その場、その場で証言し続けることです。

広瀬 そういう意味では、これから表に出てくる原発事故の影響について、彼女と同じように目を背けずに対峙していかなくてはなりません。
 先日の私の八重洲ブックセンターの講演会には、講談師の神田香織さんがきてくれましたが、神田さんがアレクシエーヴィッチさんの記録を広めてきたのです。

 月刊誌「DAYS JAPAN」では、広河隆一さんはじめ、本当によくやってくれています。このダイヤモンド書籍オンラインの連載でも、最もよく読まれているのは、そうした放射能の実害に関する話です。

秋山 メディアの人たちは、今こそ準備する時期です。原子力ムラの提灯持ちでないことを、マスコミの科学記者たちが、説明する機会です。

 今こそ、チェルノブイリ、スリーマイルの記録、あるいは広瀬さんをはじめいろんな方々が集積してきたデータにすべて目を通し、ある事実が現れたとき、何がニュースなのかをかぎ分け、感覚を研ぎ澄ます待機の時期です
 この冬をどうすごすかで、来年3月11日にどのような記事を書けるかが決まる。
 メディアの担当記者たちの腕が問われる時期が、これからの数ヵ月でしょう。


(つづく)