3月13日未明、札幌市にある認知症の高齢者のためのグループホーム「みらいとんでん」で火災が発生、7人が亡くなった。なぜ火災を防ぐことができなかったのだろうか――。

家庭的雰囲気で認知症ケアができるとして、国も“認知症対策の切り札”と位置づけているグループホーム。民家をそのまま再利用したものも多い。

 グループホームとは、「特養」や「老人ホーム」などの大規模施設とは異なり、一単位5人から9人と少人数の認知症高齢者が介助スタッフに支えられ暮らす「共同住宅」だ。家庭的雰囲気でこそ認知症の進行が抑えられるという理念から、民家をそのまま再利用したものも多い。現在、全国で1万ヵ所を超え、国も“認知症対策の切り札”と位置づけている。

 実はグループホームの防火対策は、平成18年に7人が亡くなった長崎県のグループホーム火災の分析を通じ、徹底的に見直されたはずだった。にもかかわらず再び大きな被害を出した背景を探ると、グループホームならではの防火対策の難しさが浮き彫りになってきた。

なぜ犠牲は拡大したのか?
~検証!札幌グループホーム火災

 取材班は、「みらいとんでん」でおととし撮影された映像を独自に入手した。木造の二世帯住宅を改修した建物に60代から90代までの9人が笑顔で暮らしていた。七夕の笹飾りには、『心のやさしい人生を送りたい』という願い。この穏やかな日々が、火災によって失われた。

 火災当時、建物には入居者8人と夜勤職員1人がいた。火元は居間の石油ストーブと見られ、夜勤職員は、入居者のオムツの交換中に火事に気付いたという。入居者の多くは自力歩行が困難だったこともあり、4人を運び出すまでに通報から30分以上かかった。このうち3人が死亡。焼け跡から発見された残りの4人は、寝ていた場所のすぐそばで亡くなっていた。

「みらいとんでん」の火災では、認知症のお年寄り7人が犠牲となった。火元は、居間の石油ストーブと見られている。

「みらいとんでん」の防火設備はどうなっていたのか。経営者の谷口道徳代表を取材した。

 火災通報装置は、取り付けが義務化されていたものの、3年間の猶予期間中だったため、付けていなかった。スプリンクラーは、建物の広さが基準以下だったことや経済的な理由から、設置していなかった、と谷口代表は文書で回答した。また、石油ストーブを使い続けたのは、家庭的な雰囲気を大切にしたかったためだという。

 『ストーブの前で気持ち良さそうにあたっている利用者の顔を見ていて、問題があるまではそのまま利用しようと思っていました』

 それでは、夜勤職員が1人だけだったことに問題はなかったのか。これは国の基準に見合ったものだった。全国のグループホームのおよそ半数が、夜間、職員1人で認知症の高齢者たちを支えている。介護保険制度では、夜勤の増員に対して支給される「夜勤ケア加算」は1ヵ月に換算して約7万円。多くのグループホームが厳しい経営を強いられる中、夜勤の人数を増やすのは極めて難しいという。

 取材を進めると、「みらいとんでん」では“地域連携”が不十分だったという事実も浮かび上がってきた。近所の住民の多くが、ここに認知症の高齢者が暮らしていることを知らなかった。火事が起きた時、夜勤の職員は、近所に助けを求めることなく、500メートル先の交番に駆け込んでいた。