難民が、最終的に落ち着いた暮らしを取り戻すために、定住先で労働力となることは重要だ。しかし、まず最優先されることは「人道問題」として難民問題に対応することである。子どもを家族から引き離して、将来の労働力という思惑が露骨に見える形で受け入れるなど、日本は世界に恥を晒すことになる。

「難民問題」など5つの複合的問題に直面し
危機に陥っているように見える欧州社会

 欧州に押し寄せるシリア難民の問題が深刻化している。中東やアフリカから地中海を渡って欧州入りした難民らは10月だけで21万8000人を超えたという。ドイツ政府は、今年中にドイツに到着する難民・移民の数を、80万人としている。ドイツ最大のタブロイド紙「ビルト」は、この数が150万人に達する可能性があると予測している。この状況がいつ終わるのか、まったく不透明である。

 アンゲラ・メルケル独首相は、当初「ドイツはすべてのシリア難民を受け入れる」と表明した。だが、ドイツ国内では各地で難民らを狙った襲撃や放火が相次いだ。与党キリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)の支持率はこの夏以来7ポイント低下し、盤石と見られたメルケル首相の政権基盤が揺らぎ始めた。また、ドイツ以外でも、ハンガリー、クロアチア、オーストリアなどでシリア難民を巡り検問所封鎖や国境フェンス構築など、難民流入阻止の強硬手段を巡って混乱するなど、問題が拡大している。

 欧州は深刻な危機に陥っているという見方が広がっている。シリア難民問題だけではなく、「ユーロ圏周縁国の債務」「世界的な景気減速」「ロシアのクリミア併合とその余波」そして「フォルクスワーゲン(VW)の犯罪と不正行為」と複合的な問題に直面しているからだ。

 しかし、たとえ欧州が危機に直面しているとしても、一方で「シリア難民問題」が示していることは、突き詰めれば「欧州社会の圧倒的な優位性」ではないだろうか。そもそも、なんで難民は欧州に向かっているのか、それもドイツに行きたかるのだろうか。それは、シリアに居続ければ「殺される」「人権が蹂躙される」「仕事がない」とからで、逆にドイツにいけば、「安全がある」「人権が保障される」「仕事がある」と思っているからに他ならないのだ。

危機の陰で見過ごされがちな
「自由民主主義」という欧州社会の圧倒的な優位性

 2008年、筆者のウォーリック大学の博士号授与式に両親を連れて行った時のことだ。ロンドンの地下鉄に乗ると、アフリカ系の夫婦と子ども2人が座っていた。彼らは両親の姿を見ると、とても優しい笑顔になり、快く席を譲ってくれた。父はそのことにとても感動していた。小中学の校長を歴任した父は、学校などで講演をする機会があるが、何度もその話をしたという。