このアフリカ系の家族は、誤解を恐れず言えば、民族的なルーツは「国民の半分がIHV感染」とか「テロが頻発している地域」の出身だったかもしれない。しかし、彼らはロンドンという(彼らからすれば)とても安全で自由で人権が守られ、仕事があり豊かになれる場所にいれば、とても穏やかに、ルールを守って暮らしているということだ。筆者はそういう人たちにたくさん会ってきた。ロンドンはテロが起きることがあるが、テロリストになるのはごく一部でしかなく、移民の大多数は穏やかな人たちである。大事なことは、安全な場所で穏やかに暮らしたいというのは、民族の違いなど関係なく、誰でも同じだということだ。

 我々は、欧州諸国が大量に押し寄せる難民への対応に苦戦している姿が繰り返しメディアで映し出されることで、本質的に重要なことが見えなくなりがちなのではないだろうか。本質的に重要なこととは、「人々は誰でも、自由民主主義が定着し、生命の安全、人権が守られて、雇用が確保される社会を望む」ということだ。それについて、自由民主主義が全体主義、独裁体制に比べて圧倒的な優位性があることを見逃してはならない。

シリア問題の本質的解決には
シリア社会の自由民主主義化が必要

 シリア問題は、短期的には軍事介入によりテロリスト、独裁者を排除することが解決には不可避だろう。だが、軍事介入だけでは、本質的な解決とはならない。欧州に次々流入する難民の姿を見れば、シリア人が、母国で安心して暮らし、働けるようになる自由民主主義体制を構築することしか、本質的な解決はあり得ない。

 もちろん、民主主義・市場経済という欧米の価値観にイスラムの人たちを合流させていくということには、批判があると思う。多様な価値観を守るべきだという意見だ。だが、前述の筆者の経験からいえば、「違い」を無理に強調するよりも、現時点で「同じところ」に意識を集中することのほうがいいのではないだろうか。

 そして、「生命の安全、人権、豊かな暮らし」を望むことは、民族や宗教を超えて、誰もが同じなのである。そして、その望みを叶えられるのは、今のところ「民主主義」しかない。民主主義は、いろいろ問題があるとはいえ、信教の自由、思想信条の自由も保障してきた。アフリカ、中東、カリブ、ラテン、アジアから様々な移民を受け入れ、固有の文化や宗教を守ることを基本的に認めてきた歴史があるのだ。

 従って欧州諸国は、短期的にはシリアからの難民を受け入れる持続可能な枠組作りが急務である。難民の安全な経路を確立し、教育機会や雇用を与える支援策が必要だ。それを行う国々に十分な資金を提供する世界的な取り組みも必要だろう。しかし、中長期的にはシリア社会そのものを、「生命の安全」「人権」「雇用」が確保される自由民主主義に変えていくことに取り組むべきである。