「私の欲求がイノベーションの機会! 全然気づかなかった……」
 と、洋子は目を丸くした。
「それだけじゃないわ──」と、真実はみんなの方を向き直って言った。「私や公平さん、洋子や五月、それに夢も、多かれ少なかれマネジメントには興味を持っているわけじゃないですか」
「確かに」
 と公平が頷いた。
「だから、それは『ニーズ』でもあると思ったんです」
「ニーズ?」
「ニーズは、ドラッカーがいうイノベーションを見つけるための第三の機会です。『イノベーションと企業家精神』にはこうあります」

 イノベーションの母としてのニーズは、限定されたニーズである。漠然とした一般的なニーズではない。具体的でなければならない。それは、予期せぬ成功や失敗、ギャップと同じように企業や産業の内部に存在する。(四五頁)

「『マネジメントの知識が求められているのに、高校にはそれを教える場がない』って、これ以上具体的なニーズはないな──と思って」
「へえ、つまり──」と公平が言った。「それは『ギャップ』であると同時に『ニーズ』でもあるというわけ? 二つの機会が重なってるの?」
 それに対し、真実は一つ頷くとこう言った。
「それについて、ドラッカーはこんなふうにいっています」

 これら七つのイノベーションの機会は、截然と分かれているわけではなく互いに重複する。それはちょうど七つの窓に似ている。それぞれの窓から見える景色は隣り合う窓とあまり違わない。だが部屋の中央から見える七つの景色は異なる。(一三頁)

「つまり、イノベーションの機会が重なる──というのはよくあることなんです。むしろ、重なっている方がより大きなイノベーションの機会といえるかもしれません」
 それから、新しく入った智明を指し示しながらこう言った。
「それで、私は彼に声をかけてみたんです。『マネジメントを学ぶ場を提供するから、参加してみない?』って」
 すると、それを受けて智明が言った。
「ぼくは、野球が大好きなんです。それも、するのではなく、見たり、研究したりするのが好きで。だから、野球のマネジメントをしてみたいって、ずっと前から思っていたんです。大リーグでいうところのGM──ゼネラルマネージャーのような仕事をしたいって。そうしたら、ちょうど児玉さんが声をかけてくれて」
 それに対し、五月が割って入った。
「あ! つまり真実はイノベーションを行ったんだ!」
「えっ?」