「部員勧誘のイノベーション。だって、その『誘い方』って新しくない? 普通は『野球をしませんか?』って誘うのに、真実は『マネジメントをしませんか?』って誘ったんだよ」
「おおっ!」と一同から感嘆の声が上がった。これには真実も、驚いた顔をしていた。
それを受け、五月はさらにこう続けた。
「整理すると、私たちはまず、『予期せぬ成功』に着目した」
「マネージャーだけ五人も集まる──という状況に着目したのね」
と洋子が応じた。
五月は、それに頷くとさらに続けた。
「そして、その成功を分析する中で、今度は真実が『ギャップ』の存在を見つけ出した」
「私や、それにみんなも、マネジメントを学びたいと思っているにもかかわらず、学校にその場がなかった」
「さらに、そこに『ニーズ』も見つけ出した。多くの高校生が、マネジメントを学ぶ場を求めている──という具体的な欲求に気がついた」
「だから、それを提供すると勧誘したところ、たちまち六人目の入部希望者が見つかった」
「そうして、『部員勧誘のイノベーション』が成し遂げられた……というわけだ」
そう引き取ったのは公平だった。
するとそこで、真実が「面白い!」と言った。「そうなると『野球部の定義』も見えてきた」
「どんな定義?」
そう尋ねた公平に、真実はこう答えた。
「私たちの野球部は、野球をするための組織ではない──ということです」
「えっ!」と、公平が素っ頓狂な声を上げた。「じゃあ、一体どんな組織なの?」
「それは、『マネジメントを学ぶための組織』です」
「ええっ?」
「これまでの野球部は、選手が主役で、マネージャーは脇役でした。それは、野球部の定義があくまでも『野球をするための組織』で、マネージャーはそのお手伝いに過ぎなかったからです」
「うん。それが普通だよね」
「それに対して、私たちの野球部はマネージャーが主役になるのです。そしてそのマネージャーが、マネジメントを学ぶための組織とするのです!」(つづく)
(第9回は12月25日公開予定です)