足もとで「下流老人」の増加が社会問題化しつつある。しかし、このような“下流化”は決して高齢者に限った話ではない。まだ「現役」と言える中年世代にも起き始めている現象なのだ。さらに今の中年世代が高齢化すると、今よりも厳しい“下流老人”になってしまう可能性もあるという。中年世代に忍び寄る「下流化」の現実をお伝えしよう。(取材・文/有井太郎、編集協力/プレスラボ)
「このままではやっていけない」
中年世代を襲う“下流化”の現実
「大学を出た娘は実家でニート生活。この状態が続けば、ウチは本当にやっていけません」
高齢者たちの貧困化が止まらない。たとえば、受給者が近年増え続けている生活保護において、最も受給率が高いのは「高齢者世帯」だ。今年8月の厚労省の発表を見ると、高齢者世帯が全体の49.3%を占めているという。日本人の“老後”は、想像以上に厳しいものとなっている。
また、今年6月には、71歳の男性が新幹線の車内で焼身自殺するという衝撃的なニュースがあった。報道によれば、事件を引き起こした高齢者も「生活苦を嘆いていた」という。
このような状況に警鐘を鳴らし、ベストセラーとなった本がある。それが、今年6月に刊行された著書『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)だ。著者は、NPO法人ほっとプラスの代表理事を務める藤田孝典氏。同氏は、生活困窮者の相談支援を行っており、その中で出会った貧困に喘ぐ“下流老人”たちの実態を紹介。下流化を生んだ原因や、社会的な問題点を指摘した。
ではなぜ、このような高齢者の下流化が起きたのか。藤田氏は、その理由をこう考えている。
「かつての高齢者は、年金に加えて、子世代のサポートや夫婦での助け合いなどにより老後の生計を立てていました。しかし現代では、家族機能の低下やワーキングプアの増加によって子世代の助けがなくなったり、未婚者が増加したりと、老後の経済的な助けを受けられる要素が少なくなっています。これにより、生活が貧しくなっているんです」
これまで高齢者を支えていた様々な要素が、時代を経るにつれてなくなってきている。その結果、下流老人が生まれているようなのだ。
こういった下流老人の話を聞いたところで、現役で働く30代後半~50代の中年世代は、どこか他人事に感じるかもしれない。だが、その考えは捨てたほうがよさそうだ。というのも、藤田氏によれば「下流化は中年世代にも起きている」という。