これこそ第九の日本初演です。俘虜に女性はいないので男声合唱版だった点だけがベートーヴェンの指示とは違っていますが。

 この徳島オーケストラによる日本初演はベートーヴェンの初演から94年後のことです。早いとみるか遅いとみるか。20世紀初頭の段階で、音楽事情にこれだけの差があったわけです。

聴き比べも一興、第九の名盤

 世紀の傑作ですから、第九には数々の名盤があります。4つを厳選します。

 まず、フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団演奏の1951年盤です。第二次世界大戦後初めて開催されたバイロイト音楽祭の実況録音盤です(写真は冒頭ページ)。トリビアですが、この演奏時間は約74分。CDの標準規格は74分ですが、これはフルトヴェングラーの第九を一枚に収めるためだという説もあります。

 次に、日本が誇る朝比奈隆の指揮による新日本フィル盤。80歳を過ぎてから取り組んだベートーヴェン交響曲全集の一つ。東京はサントリー・ホールでの実況録音盤です。入魂の音楽がここにあります。

 そして、カラヤン指揮ベルリンフィルの1983年9月録音盤。楽譜をしっかり読み込み精緻に響きを紡ぎながら、力強く人間賛歌を歌いあげています。あまりに独逸的な演奏です。端正な佇まいにして質実剛健・筋肉質という感じでしょうか。

 ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリュショネール・エ・ロマンティーク盤は古楽器による演奏です。1994年の発表はセンセーションを巻き起こしました。古楽器は、改善が進んだ現代の楽器にはない19世紀当時の芳香を感じさせます。ベートーヴェンが生きた時代を彷彿させます。

 番外盤が現代ジャズフュージョンの第一人者ボブ・ジェームスの「フォクシー」冒頭に収録されている“ルードヴィッヒ”です。これは第九の第二楽章を現代的にアレンジしたものです。ボブのキーボードを中心にベースとドラムで演奏されています。旋律とリズムが新鮮です。19世紀の音楽が時を超えて蘇る感じです。

 さあ、年末年始です。第九の聴き比べも一興ですよ。ほんとうに。

<参考文献>
「ベートーヴェンの生涯」ロマン・ロラン著、片山敏彦訳(岩波文庫)

(音楽愛好家・小栗勘太郎)