ついに米国が利上げに踏み切った。利上げは、自動車や住宅などの消費を冷え込ませ、景気腰折れのリスクをもたらすとともに、ブラジルなどの新興国市場のマネーを流出させ、新興国経済の混乱を招きかねない。実に9年半ぶりとなる利上げは、金融緩和に浸り切った世界経済にどのようなインパクトを与えるのだろうか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)
米連邦準備制度理事会(FRB)は12月16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、ついに利上げに踏み切った。政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0~0.25%から0.25~0.50%に引き上げた。2008年秋のリーマンショックを受けて導入したゼロ金利が、いよいよ解除される。利上げそのものは、図のように、06年6月以来、実に9年半ぶりだ。
なぜ利上げに踏み切ったのか。小野亮・みずほ総合研究所主席エコノミストは、「FRBは、今なら米国経済が利上げに耐えられると判断した」とみる。
米国経済は09年6月を底に景気拡大局面が続いている。リーマンショックの非常事態から脱した以上、金利水準も元に戻すのが当然の流れだった。
それでも、イエレンFRB議長が利上げに慎重な姿勢を取ってきたのは、利上げによる影響が大きいためだ。金利が上がれば、自動車や住宅などの消費を冷え込ませ、景気を腰折れさせてしまう恐れもある。それだけに、消費を支える要素の一つとして、イエレン議長は雇用を重視してきた。
15年11月の失業率は5%、ほぼ完全雇用といわれる。パートタイマーなどを含めた失業率も下落傾向を見せており、賃金も上昇している。これが利上げ後も景気拡大が持続するという自信になったのだろう。FOMCでは10人のメンバー全員が利上げに賛成した。
もっとも、マーケットはすでに今回の利上げは織り込み済みで、焦点は利上げのペースに移っている。イエレン議長は明言しなかったものの、「16年内に2~4回というのがマーケットのコンセンサス」(村田雅志・ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)とみられている。実際、FOMC参加者によるFF金利の見通し(中央値)は16年末が1.375%となっており、0.25ポイントずつ4回の利上げを見込んでいるとみられる。